- HOME
- コラム
- エコノMIX異論正論
- 「イタリア化」する日本
コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
「イタリア化」する日本
日本の政局は、大混乱になってきた。こういう状態をよく「イタリア化する」というが、別の意味でも日本はイタリアによく似てきた。G7諸国で1人あたりGDPや労働生産性などをランキングすると、かつては日本がトップでイタリアが万年最下位だったが、最近は仲よく最下位を争うようになった。財政赤字のGDP比などは、日本がぶっきちぎりのトップに躍り出た。
これはおそらく偶然ではない。イタリアがよく「欧州の最貧国」といわれる最大の原因は、政財官界の上層部が親戚関係で結びついていて、そういうファミリーにつながりをもたない人はビジネスができないためだといわれる。株式市場は実質的に存在せず、銀行の融資も特定の財閥に独占されているので、イタリア人が事業を興すには家族から金を借りるしかない。このためイタリアの事業規模は先進国でもっとも小さく、グローバル企業がほとんどない。
似たような現象は、フランスやスペインでも指摘される。ラテン系の国々は歴史が長く、同じ家系が何百年も続いているので、こうした既得権をもつ人々が政治・経済的な特権を独占し、新規参入を排除するシステムができてしまっているのだ。その結果、生産性が低下し、政治が腐敗し、政権の混乱が続く。日本も、この意味で急速に「ラテン化」しているのかもしれない。
さすがにイタリアもこれではまずいと気づき、2006年に腐敗の象徴だったベルルスコーニ首相が政権から追放されたが、そうすると政権が「イタリア化」して混乱が続き、結局は昨年、ベルルスコーニが政権に復帰した。ローマに住む日本の友人は、あきらめ顔でこういう。「みんなベルルスコーニが嘘つきで腐っていることを知っているが、彼は意外に人気がある。あのでたらめさが、イタリア人そのものなんだよ」。日本も確実に、イタリアの後を追っているように見える。
この筆者のコラム
いま必要なのは途上国型の「戦時レジーム」の清算だ 2015.07.30
中国の軍事的膨張で変容する太平洋の秩序 2015.07.23
挫折した反安保法案デモの「アカシアの雨」 2015.07.16
「霞ヶ関文学」で書かれたSF小説「骨太の方針」 2015.07.09
問題は言論弾圧ではなく「メディアの歪んだアジェンダ設定」だ 2015.07.02
文科省が打ち出した「文系大学はもういらない」の衝撃 2015.06.25
黒田総裁は「平成の高橋是清」になるのか 2015.06.18