コラム

日本の財政は世界最大のネズミ講

2009年06月18日(木)17時50分

「1人殺すのは犯罪者だが、100万人殺せば英雄になる」といったのはチャプリンだが、ネズミ講も数億円だと犯罪になるが、1000兆円になると国民に堂々と発表できるようだ。先週、政府の経済財政諮問会議に出された「骨太の方針」の素案では、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2011年に黒字化する方針を放棄し、2020年ごろに黒字化するには消費税を12%に引き上げる必要があるという試算を公表した。これはバラマキ補正予算で発行する巨額の国債を、子孫の税金で償還しようというネズミ講だ。

 しかし日本の財政赤字は主要国で最悪であり、とてもこの程度の増税ではすまない。政府債務のGDP比は2.17倍で、2014年には2.34倍にふくらむというのがIMF(国際通貨基金)の予測だ。基礎的収支を黒字化することは政治的に不可能だが、せめて赤字を半分にするためにも、GDP比14.3%も増税しなければならないという。これを消費税(税率1%でGDP比0.5%)だけでやるとすると、29%増税しなければならない。

 年金も、生涯の年金・健康保険などの給付と負担の差が、1940年生まれの人はプラス4850万円であるのに対して、2005年生まれの人ではマイナス3490万円という試算がある。いま生まれる赤ちゃんは、誕生の瞬間に3500万円の借金を背負うわけだ。これは日本の年金制度が、同時代の現役世代が負担する「賦課方式」になっているためだ。これは引退世代Aは現役世代Bから受け取り、世代Bが世代Cから・・・というネズミ講方式だから、働き手が増える高度成長時代には支えることができたが、働き手が減ると行き詰まってしまう。

 いま国債を発行して将来世代が税金で償還するのもネズミ講だ。税と年金を両方あわせると、いま生まれる日本人は、生涯で80万ドル(7600万円)の純債務を負い、税額は今の18倍になるという試算もある。これも借り換えていけば先送りできるが、基礎的収支が赤字だと、財政赤字が発散して債務不履行になる。国民がそのリスクに気づくと、長期金利の暴騰(国債価格の暴落)やハイパーインフレなどの破局が起こる可能性がある。そういう地獄を見るのは、私が年金をもらい終えたころにしてほしいものだが、ゼロ成長と少子化も世界最悪のペースで進んでいる日本では、そう遠くないかもしれない。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日本の働き掛け奏功せず、米が相互関税24% 安倍元

ワールド

ロシアが企業ビル爆撃、4人死亡 ゼレンスキー氏出身

ビジネス

米関税24%の衝撃、日本株一時1600円超安 市場

ワールド

米連邦地裁、収賄疑惑のNY市長の起訴棄却 政権の「
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story