コラム

環境バブルがやってくる

2009年06月04日(木)17時00分

 オバマ政権の最大の目玉は「グリーン・ニューディール」だ。今後10年間で環境分野に1500億ドル投資し、500万人の雇用を創出するということになっている。日本でも環境省が「緑のニューディール」を提唱し、4月の補正予算でも「エコカー」や「エコポイント」が目玉になった。こうした政府の動きを受けて、環境関連のビジネスが活気をみせている。輸出が大きく落ち込んだ自動車産業も、ハイブリッド車だけは生産が受注に追いつかない。太陽電池や節電型の「エコ電機製品」の売れ行きも好調だ。

 環境を保護することに反対する人は誰もいないので、政府が「環境を守ろう」と呼びかけるのは結構なことだ。しかし政府が民間の経済活動に介入して「環境にやさしい」ビジネスに補助金を出すのは危ない。もともと「エコ」がブームとして盛り上がっているところに政府がお墨付きを与えると、ブームがバブルになってしまう。同じような現象は、1990年代末に「IT革命」がブームになったときも起きた。

 ITと環境には共通点がある。長期的にみれば、どっちもこれから大事になってゆくことは確実で、それに投資することは社会的には間違っていない。しかし市場経済では、社会的に大事なビジネスがもうかるとは限らない。どんなに立派な商品でも、それを買う顧客がいないとビジネスは成立しないのだ。特にブームになると多くの企業が参入するので、超過供給になるおそれが強い。ITバブルのときは、ワールドコムやグローバル・クロッシングなどが国際回線に莫大な投資を行ない、破綻した。株式市場で彼らの評価は高かったが、顧客がいなかったからだ。

「私は環境保護がきらいです」という消費者はいないだろうが、彼らは環境にどれだけ金を出すのだろうか。日本経団連の調査によれば、日本人が環境保護に出してもいい費用は「世帯あたり月1000円未満」が60%以上を占める。1世帯で年1万円程度の支出では全世帯で5000億円にしかならず、「環境市場の規模は50兆円」という政府の見通しとは大きなギャップがある。このように供給側の予想と消費者の需要が大きく食い違うのは、典型的なバブルの兆候だ。少なくとも政府が、それをあおるような政策はやめたほうがいい。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story