コラム

中国に生まれた子供たち

2011年12月10日(土)07時33分

 うっかりしていたが、12月8日は新疆ウィグル族自治区カラマイ市(Karamay、中国語では「克拉瑪依」)で1994年に起こった「カラマイ大火災」の17周年記念日だった。今年は広東省で起こった幼女ひき逃げ事件、そして甘粛省での幼稚園送迎バス事故など、子供たちが大人の都合の犠牲になるという痛ましい事件が続いたためか、この日インターネットではいつもに増してこの大火災が話題に上っていた。

 カラマイ大火災の全貌が一般に知られるようになったのは、わずか5年前の2006年である。事件からすでに12年が経っていながら、政府が事件直後に市民に約束した記念館がいまだに着工の兆しすらない、というインターネット掲示板への書き込みがきっかけだった。

 事件は94年12月8日、同市が「9年制義務教育普及、青壮年の文盲一掃を基本的に達成した」ことを祝う会で起きた。劇場に市内の8小学校、7中学校の学生や教師、及び市政府関係者ら約800人が集まっていたところ、記念式典文芸ショーのライトに加熱されたカーテンから起きたボヤがあっという間に燃え広がり、学生288人を含む死者325人、負傷者132人の大惨事となった。

 この事件がただの「火災」で済まなかったのは、生き残った人たちが、舞台上で燃え広がり始めた火に気が付いた子供たちが観客席で立ち上がったが、女性の市職員がマイクを握って「あわてないで、座って!」と指示し、続けて「市政府の皆さんが先です」と最前列中央席に座っていた市政府関係者を出口に誘導したと証言したからだ。学生や教師らは政府関係者が先導されて通路沿いに劇場外へと出ていく様子を着席したまま見送った。しかし、市政府トップ3人及び同市の教育委員17人全員が無事に脱出した後、出口のシャッターが下ろされ、それに続くはずだった館内の人々は大混乱に陥った。

 その頃には劇場付近の人々も火事に気付き、救援活動を始める。しかし、劇場内は停電状態で電動シャッターはぴくりともせず、内から外から周囲の窓やドアを叩き壊して救出にあたったという。しかし、わずか20分間燃え続けた火は400人以上の死傷者を出した。

 事件後多くの人たちの証言で、「市政府の皆さんが先です」と叫んだ女性は同市の教育担当女性副市長だったことが判明。劇場内の電源を落とさせたのも彼女だったと言われ、責任を問われて4年6か月の懲役判決を受けたが、この女性副市長はトップらと一緒には逃げず、学生たちと一緒に館内に閉じ込められ、顔の90%が焼け焦げるほどのやけどを負ったため収監されずにそのまま入院した。このほか最初に子供たちを放って逃げた市政府トップや教育委員らも懲役5年から6年の判決を受けた。

 その後火災現場の劇場は火災記念館に生まれ変わるという報道があったものの、工事は進まず、97年には同劇場を取り壊すという案まで出たが市民の大反対で正面の壁を白く塗り替えただけで、今もそのまま残されているそうだ。

 だが、この事件が06年に再び人々の目にさらされたのは、当時現場から最初に逃げ、5年の懲役判決を受けた市政府トップの一人が04年に同市の党委員会書記に任命されたことに起因する。その後、「同書記は当時逃げた市政府トップと同姓同名の別人だ」という解釈も現れ、現在インターネットで人物検索をしても別項目で二人の経歴が並んでいる(しかし、二人が別人であるかどうかはその経歴を読み比べてもよくわからない)。それでも同書記が事件現場の劇場周辺を人民広場として改造したものの、火災の記念碑すら立てなかったことから、「現場から逃げたやつでないとしても、事件を無視するやつには違いない」と市民の反感を増幅した。

 カラマイ市はもともと油田を中心に出来ている街で、当時の人口は20万人。負傷者や遺族の中には、国のエネルギー政策で保護された油田事業によって余生を保障された人もいる。子供を失った家庭、あるいはその後の生活に支障をきたすようなやけどを負った子供の両親には「一人っ子政策」を緩和して第二子出産を認める特別措置も取られたという。

 しかし、遺族らの様子を追ったドキュメンタリー映画(合計6時間の大作だが中国語のみ)はいまだに国内で上映できず、公だった事件の記念活動も行われないままだ。この映画を見ると、二人目の子をもうけることができた親たちも当然のことながら事件のことを忘れることができずにいるのがよく分かる。

「カラマイの子に生まれるな、肌を焼かれて母は心を焦がすから
沙蘭鎮の子供に生まれるな、水に巻き込まれて眠ることができないぞ
成都人の子供に生まれるな、麻薬中毒の母は7昼夜も家に戻ってこないから
河南人の子供に生まれるな、エイズが血の中でわははと笑うから
山西人の子供に生まれるな、煤けた父と二度と会えなくなるから
中国人の子供に生まれるな、腹が減ったら食われてしまうから
荒野に生きるヤギの子に生まれれば、鋭い目をして守ってくれる
中国人の子供に生まれたら、父も母も臆病な人ばかり
彼らの根性を見せつけるために、死ぬ直前も政府役人を先に逃がすのさ...」

 盲目の流浪歌手、周雲蓬さんの「中国孩子」(中国の子供)の歌詞だ。07年に作られたこの歌は、カラマイの子供たち、決壊したダムの濁流に飲み込まれて亡くなった沙蘭鎮の子供たち、麻薬中毒の親に放り出されて餓えた子供、売血で村中がエイズに感染した村の子供、そして何の保障もない炭鉱夫を親に持つ子供たち...を歌っている。

 この歌が発表されてからも、中国では有機化合物メラミンが混入したミルクを飲んだ乳幼児たちが腎臓に異常を起こす事件が起こり、広東省でのひき逃げ、甘粛省の幼稚園バス事故が続いている。そしてそのどれもが誰が責任者で、なぜそれが起こったのか、子供たちの無事な成長のため、政府はどうすべきなのか、が語られずに時が過ぎていく。

「中国の子供に生まれるな」。子供好きな中国人にとっていたたまれない現実だろう。

プロフィール

ふるまい よしこ

フリーランスライター。北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部中国学科卒。1987年から香港中文大学で広東語を学んだ後、雑誌編集者を経てライターに。現在は北京を中心に、主に文化、芸術、庶民生活、日常のニュース、インターネット事情などから、日本メディアが伝えない中国社会事情をリポート、解説している。著書に『香港玉手箱』(石風社)、『中国新声代』(集広舎)。
個人サイト:http://wanzee.seesaa.net
ツイッター:@furumai_yoshiko

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