コラム
ふるまい よしこ中国 風見鶏便り
「解任」と「異動」の間で
中国鉄道部の王勇平スポークスマンが8月16日、その職を「解任」された。
カッコ付きなのは、新華社の英語配信では同氏が「dismiss」されたとはっきり書かれ、日本メディアの多くもそれに応じて「免職」「解任」「更迭」と伝えたが、中国語報道では最初の「停職」「免職」からだんだん「卸任」「離職」「被調離」という表現が増えてきたからだ。これらはそれぞれ「任を終えた」「職を離れた」「異動になった」という意味で、「免職」や「解任」に比べると処分的な意味が薄く、その用語意図は明らかだ。
王氏は7月末の高速鉄道事故直後の記者会見で追突車両の運転台を潰して埋めた理由についてきかれ、「作業用クレーンの足場作り。信じるかどうかはあなたの勝手だが」と突き放し、また捜索活動を半日で打ち切った後に幼女が救出されたことを「奇跡だ」と形容して、大きなブーイングを浴びた。そんな王氏の去就は事故後ほとんど政府からの発表がない中で最大の「注目ニュース」だった。中国メディアはその意味に注目した。
同事故については報道規制が出ているものの、一部メディアでは報道が続いている。メディアがまれにみる執念深さを見せるのは、この事故が大きく三つの要素を含んでいるからだ。
一つ目はもちろん、鉄道事故そのものである。国が巨額の投資を行い、メンツをかけて最新鋭の独自技術を謳って鳴り物入りで開通させた鉄道の、事故後も多くの鉄道関係者が「追突事故なんて起こり得ないはず」と断言するシステムでなぜ事故が起こったのかという疑問。事故後も事件自体に関してまったく情報開示がなされていない点にも、人々は不信と不満を感じている。
次に現場処理のまずさだった。これは我々も目にした通り、衆人注視のもとで行われた運転車両つぶしや、宙づりになっていた車両を乱暴に引きずり落とすというあまりに粗暴なやり方に、多くの人たちがこれを「二次災害」と呼んでいる。
そして、三番目が王氏の態度や遺族や負傷者への対応など、鉄道部の事後対応能力の低さである。前述したような言葉をさらりと吐くスポークスマン、そして賠償協議における遺族や負傷者の家族へのアプローチ、そしてその受け入れ期限を設けて賠償内容を差別化した賠償協議や、妊娠中の妻ら家族5人を失い、鉄道部の非を最も声高に叱責していた遺族に居住地域の鉄道チケット専売権を与えるなど賄賂まがいの対応もやり玉に挙がった。
これらはもともと鉄道部が内部に抱える病根からくるものだが、それにしてもこのようにそれぞれ十分問題な出来事が一挙に三つも重なったことで、人々の怒りが増幅されたのである。実際のところ、高速鉄道「事故」ではなく、高速鉄道「事件」と呼ぶべきだ。
くだんの王勇平氏は、中国がアメリカを真似て政府機関のスポークスマン制度を創設した2003年に就任した、同部の「初代」スポークスマンだった。その彼がもし正式に更迭されたのなら、少なくとも鉄道部には前向きに事態に取り組む視線があるという意味になる。完全に外部をシャットアウトして行われている事故原因の検証において、これは外の人間が垣間見ることのできる希望の光だ。
中国にももちろん、「官吏の問責制度」がある。胡錦涛と温家宝の時代に入ってから熱心に推進され、庶民が胡温体制に行政改革を期待し、彼らを好感を持って受け入れた理由の一つだった。
しかし、03年のSARS騒ぎの際に感染拡大情報を隠していたことで責任を問われて罷免された元衛生部長(衛生相に相当)が、その1年後に山西省の要職に返り咲いていたことが同省で起こった大型の土石流事故をきっかけに明らかになった。また08年のメラミンミルク事件でやはり職を負われた担当管理責任者がわずか数カ月で地方の別機関で昇進していたことも暴露された。そのほか多くの事故や事件で監督不行き届きとされて失脚した官吏たちが、何事もなかったように1年以内に別の地域のニュースに顔を出す......現在の盛光祖鉄道部長(鉄道相)ですら過去一度鉄道事故が原因で職を解かれたが、税関総署副署長に就任したという経歴の持ち主なのだ。
そして8月17日、後任人事(ハルビン鉄道局の韓江平氏が就任)とともに、王氏が「離職」後も待遇は変化せず、また部内の階級にも変動はなく、国際的な鉄道事業組織である「鉄道国際協力機構」の中国代表としてポーランドに赴任することが明らかになった。
今、この事件に注目している人たちには「今回もか」と呆れ声とともに政府に対する失望感が広がっている。中国政府はいつまでこんなことを繰り返すつもりなのだろうか。
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