コラム

講義を聞く猫 ── オンラインコミュニティから進む韓国の野良猫対策

2016年02月23日(火)18時45分


「講義を聞く猫」



 2016年2月、DAUMストーリーファンディングでもっとも人気なのが「講義を聞く猫」。国民大学というソウル市内の大学キャンパスに住むキルゴヤンイ達の避妊手術と猫給食所運営のため200万ウォンを募金しようと、この大学の学生と職員らが国民大学キルゴヤンイたちのストーリーを写真と共に載せた。

 ソウル市内にありながら山に近い国民大学では、いつの間にか猫が増え、講義室や図書館にまで入ってくるようになった。猫をかわいがる学生と怖がる学生、キャットフードをあげるだけで排泄物やごみは片付けない学生、それを批判する学生、色々な問題があった。猫にどう接したらいいのか、どうしたら猫と学生と職員が共存できるのかを悩んだ末、学生たちは猫給食所を運営して猫がキャンパス内のごみを漁ることや食べかけのキャットフードがあちこちに散乱することを防ぐことにした。氷点下15度を超えるソウルの寒さに耐えられるよう猫の家も作る。猫の繁殖を止めるため避妊手術も行うことも計画。そのため校内での募金活動に続いてDAUMでの募金を呼びかけ、2月23日時点で764人が11,146,660ウォンを寄付、目標額の5倍を突破した。

 キルゴヤンイも大事な生命なので人間と共存しないといけない、こうした考えが広がったのは3年ほど前にさかのぼる。

 2013年、猫好きで有名な大人気WEBTOON(インターネット上で連載されるデジタル漫画)作家カンプル氏がSNSでキルゴヤンイ対策を考えてみようと呼びかけた。キャットマムの近所トラブルを避けながら、キルゴヤンイが路上で生きていけるよう手助けするにはどうしたらいいのか。

 そこへカンプル氏の地元であるソウル市江東区(カンドング)が、自治体としては初めて区内約20カ所に「猫給食所」を設置した。2015年には60カ所近くに増えた。猫給食所の管理は猫好き市民ボランティア達が担当している。猫給食所でいつでもえさを食べられるので猫たちはごみを漁らない。猫給食所にやってきたキルゴヤンイを捕獲して避妊手術をし、元の場所に戻す。猫が増え続けるのを防ぎ、殺処分も減らし、発情した猫のなき声がうるさいという地域住民の苦情を減らすためである。猫給食所と避妊手術をセットにして普及させ、自治体のSNSで宣伝。さらに市民らもSNSで拡散し、キルゴヤンイのような小さい命も大事にする市民意識の変化、という流れは他の自治体にも広がった。

プロフィール

趙 章恩

韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日本供与のエムポックスワクチン、3分の1が廃棄 コ

ワールド

焦点:米航空会社、感謝祭目前で政府閉鎖の影響に苦慮

ワールド

アングル:ガザ「分断」長期化の恐れ、課題山積で和平

ビジネス

国内外の不確実性、今年のGDPに0.5%影響=仏中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 8
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 9
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story