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写真の醍醐味は単に目の前にあるものを写すことではない

Q.サカマキ(写真家/ジャーナリスト)が選ぶ「私の写真哲学に火をつけてくれた3冊」

2016年03月15日(火)06時12分
Q.サカマキ(写真家/ジャーナリスト)

写真以上に写真だった描写に打ちのめされた

 2冊目も写真集ではないが、辺見 庸の『もの食う人びと』(角川書店)も私の写真哲学に火をつけてくれた。頭から打ちのめされた。すべての人が関わる、あまりにも当たり前の"食"を通し、戦争や、経済格差という世界的な問題を扱っていたからだ。

 食がテーマであるがゆえに、一層、問題が鮮明になっていた。加えて、ディテールやシンボルにこだわった著者のスタイルも大きな魅力だった。例えば、ソマリアの道路にこびりついていたアメリカ兵の皮膚と蝿、チェルノブイリの放射能の森のキノコ。そうした描写は、いや作品作りの感覚は、写真以上に写真だったのである。

強烈な隠し味とアイデンティティーを持った写真集

 最後は、ジョセフ・クーデルカの写真集『プラハ侵攻 1968』(平凡社)である。初めて見たときはその凄さが理解できなかったが、いつの間にか衝撃を覚えるようになっていた。現在のフォトドキュメンタリー・フォトジャーナリズムに通じるほぼ全てが存在するからではない。その裏に強烈な隠し味として、生と死の不条理だけでなく、退廃とセクシーさが潜んでいるからだ。

 運命的なアイデンティティーという要素もある。彼自身が、悲劇に終わった「プラハの春」を経験したチェコスロバキア人だったということだ。それにより彼の作品は、たとえ概念上だけだとしても、その国民、いや当時鉄のカーテンの中で生きていた数億の東ヨーローパ人のアイデンティティーそのものまで共有するのである。

 そして写真が写真を超えるためには、隠し味だけでなく、そうした写真家独自のアイデンティティーも持たなければならないのだ。

sakamaki_profile.jpgQ.サカマキ
写真家/ジャーナリスト。1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争―WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

※Q.サカマキの本誌ウェブコラム「Instagramフォトグラファーズ」

●この記事は「特別企画 Book Lover's Library」のために書かれました。Book Lover's Libraryは、amazon.co.jpとの特別企画です。

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