PR〔amazon.co.jp〕

健全な批判精神と「自称ジャーナリスト」の罵詈雑言は違う

横田 孝(ニューズウィーク日本版編集長)が選ぶ「私にジャーナリズムを教えてくれた3冊」 

2016年03月15日(火)06時11分
横田 孝(ニューズウィーク日本版編集長)

Stevecoleimages-iStock.

 スランプに陥ったら基本に立ち返る──仕事でもスポーツでも通じる鉄則だろう。これまでさまざまな本から国際情勢や政治などについて知識や視点を得てきたが、ジャーナリストとしてのベースとなった本を紹介したい。

ジャーナリストの基本に立ち返らせてくれる1冊

 ジャーナリズムの基礎は現場や大学院で学んだが、ふとした時に今でも再読するのが『The Elements of Journalism: What Newspeople Should Know and the Public Should Expect』(Bill Kovach、Tom Rosenstiel著、Three Rivers Press、邦訳『ジャーナリズムの原則』日本経済評論社)。こちらはできれば原文で読むことをお勧めしたい。ときに誤解されるジャーナリストの使命について9つの原則を挙げ、報道の指針を示している。

 たとえば「権力の監視役」。ジャーナリストはwatchdog(権力の番犬)だといわれるが、それは必ずしも政府権力などに対して敵意をもって報じることではないと説く。健全な批判精神が必要なのは言うまでもないが、あくまで事実とフェアネスをもって権力を監視し、批判すべきことは批判するのが「権力の監視役」だと定義している。

 このほか、中立的な報道よりもフェアネスを追求すべき(そもそも完全に客観的な報道は不可能)と明示するなど、読者・視聴者だけでなく、ときにはジャーナリストも十分に理解していない職業的倫理を明快に示している。

 本書が出版された01年当時、すでにアメリカのジャーナリズムは商業主義化や国際報道の劣化が懸念されていた。ネットがメディア環境を激変させることは漠然と予想されていたものの、ブログやソーシャルメディアがもたらした地殻変動までは予見されていなかった。メディアのさまざまな変化を踏まえて、改訂版が一昨年出版された(リンク先は改定版)。

 政府によるメディアへの「圧力」が指摘される一方で、検証なき情報や思い込みで狂犬のごとく罵詈雑言を吐き散らす「自称ジャーナリスト」も目に付く今日この頃。こんな時代だからこそ、改めてジャーナリズムの基本に立ち返りたい。

MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 10
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story