横田基地の問題をめぐっては、抗議活動のほか騒音訴訟も行われているが、規模は概して小さい。2023年11月に、横田基地所属のCV-22オスプレイは屋久島沖で墜落事故を起こしたが、翌年7月には周辺自治体への事前通告もないままその飛行を再開させている。
だが、これらの問題が起こっても、横田基地の問題に対する人々の関心が高まっているようには見えない。
本書の執筆者のひとりであり、宜野湾市で生まれ育ち普天間飛行場が「日常」であった宮城氏のこの回想には、日本社会において基地問題に対する関心が高まらない理由が隠されているように思われる。
たとえ「日常」に基地の存在があり、漠然とした危険性や不安を感じていても、何か大きなきっかけがなければ、慌ただしい日常生活のなかで基地問題に関心を抱くことは難しい。「日常」に基地が存在しなければ、なおさらであろう。
本書のもうひとりの執筆者である山本氏は、日本に住む大多数の人が基地問題に関心を抱いていない現状が、問題の解決を難しくしていると指摘する。
そうであれば、まずは、誰でも基地問題の当事者になりうるという、日本の現状を知るところから始めてはどうか。防衛・安全保障に対する日本国民の危機意識が極めて高い状態にある今が、基地問題への関心を高める絶好の機会なのではないか。
日本の安全保障は岐路に立っていると言われて久しい。本書のような、日本の防衛・安全保障をめぐる問題の実態をありのままに伝える本が、問題への関心を人々に抱かせるきっかけとなり、国民的議論の活発化を促すのかもしれない。
池宮城陽子(Yoko Ikemiyagi)
慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得満期退学、博士(法学)。成蹊大学アジア太平洋研究センターポスト・ドクター、日本学術振興会特別研究員(PD)などを経て、現職。専門は日米関係史。主著に『沖縄米軍基地と日米安保―基地固定化の起源1945-1953』(東京大学出版会、2018年)がある。「戦後米国の沖縄基地政策―『二重の封じ込め』と沖縄基地の役割、1945~1951年」にて、サントリー文化財団2013年度「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」に採択。
『日米地位協定の現場を行く―「基地のある街の現実」』
山本章子、宮城裕也[著]
岩波書店[刊]
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