現在の大阪の市街地で時間を過ごす際──外国人観光客の姿が目立つのはもはや見慣れた風景だが──外国人労働者の姿を目にする機会が多い。
特にコンビニ、飲食店、各種の量販店など。接客業だけでなく、バックヤードで働く外国人も多いはずだ。さまざまなルーツを持つ人びとがうごめく大都市としての大阪は、いまも健在である。
そもそも、これまでの大阪の繁栄は、他地域からの流入者の存在なしには起こり得なかった。都市とはそういうものである。
大阪の場合は、古くは近江商人、伏見商人がいたし、瀬戸内や和歌山といった近接地域からの流入者、東アジアからの流入者、そして河内の労働者など、多様な背景を持つ経営者・労働者が集まってきた。
これを考慮すれば、大阪の都市イメージを〈船場〉と〈河内〉に切り分けてきたという歴史は、実態に反して中心と周縁を固定化したいという願望の表れだったとも言える。
大阪イメージは誰の専有物でもないのだから、エンターテイメントとして楽しむこともできるし、商売に利用することもできる。
ただし、その際に大阪の多様性を見逃さないようにしたい。エンターテイメントや商売のなかの固定化されたステレオタイプを、大阪の多様性を知るためのドアにしていきたい。そのほうが「オモロイ」ではないか。
共同研究を進めるにあたって、念頭に置いていたのは、作家・中島らもの次のような言葉だった。
関西を大阪と読み替えて、中島らもの言葉を受け止めたとき、私たちはどうすれば「うさん臭くない」方法で、大阪を語ることができるのか、と問われているような気がする。そのひとつの試みが『河内と船場』という本なのである。
山本昭宏(Yamamoto Akihiro)
神戸市外国語大学准教授。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。主著に『大江健三郎とその時代:戦後に選ばれた小説家』(人文書院、2019年)、『残されたものたちの戦後日本表現史』(青土社、2023年)、『変質する平和主義:〈戦争の文化〉の思想と歴史を読み解く』(朝日新聞出版、2024年)など。
※本書は2021年度、2022 年度サントリー文化財団研究助成「学問の未来を拓く」の成果書籍です。
『河内と船場:メディア文化にみる大阪イメージ』
山本昭宏[編]
ミネルヴァ書房[刊]
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