イートン校の生徒 Jun Huang-shutterstock
イギリスの「パブリック・スクール」とは、その名に反して私立学校を指す。日本でいうところの上に大学を置かない、麻布や開成といった中高一貫教育を行っている私立学校に似ている。
13歳というまだまだ幼い年齢で費用の掛かるパブリック・スクールに子どもたちを送り出す親たちがイギリスにも沢山いるが、何を求めてイギリスの親は我が子をパブリック・スクールに入学させているのか?
一つには、安定した生活や社会での成功に結びつきやすいオックスフォード大学やケンブリッジ大学への進学を子どもたちに目指してもらうためだ。その中には将来のための人脈作りも含まれている。
しかし、それだけではない。今でもリーダーシップや個人の完成が、パブリック・スクールにおいてのみ達成されると考える人々は多く、学業以外に子どもたちが社会で生きるための「マナーやモラルをきっちり身につけて欲しい」、また、「彼らの隠れた才能や能力を見いだしてもらいたい」と願う親たちも多いのだ。
イギリスでは、「マナーやモラル」は幼少期からとても厳しくしつけられている。
例えば、親は公衆の場に幼い子どもを連れて行かないし、連れて行かなければならない場合も、駄々をこねたり、泣き出す子どもには容赦なく叱りつける。近頃、日本では、このような人々の姿を見ることがほとんどなくなってしまったが、他人でも、行儀の悪い子どもや平気で嘘をつく子どもを叱ることがままある。
パブリック・スクールでは、授業を受ける生徒に対するしつけは厳しいもので、態度の悪い生徒は学校に来ること自体が許されず、停学あるいは退学となる。
この「マナーやモラル」は寮生活でも重要だ。イギリスのパブリック・スクールは、全寮制の学校が多いが、全寮制であることで人間関係は密になり、ハウスマスター(寮監)やチューター(教師)、デイム(寮母)たちとも家族ぐるみで交流することになる。その結果、ハウス(寮)の連帯感や、生徒間の、あるいは教職員と生徒間の強固な人間関係が生れていく。
このように礼儀や誠実さや公平な態度が、実りあるコミュニティーを作っていくことを、寮生活の中で誰もが次第に学んでいく。実社会に入る前に模擬体験を積んでいるとも考えられる。
ちなみに、1382年に創設されたザ・ナイン最古のパブリック・スクールであるウィンチェスター校のモットーは、「マナーが人を作る」である。このモットーは、日常会話や多くの書物の中でも頻繁に取り上げられるほどイギリス社会では有名な言葉で、ウィンチェスター校の進学先であったオックスフォード大学のニュー・カレッジ(1379年創設)のそれでもある。