アステイオン

座談会

「現場を見ないとわからない」と述べた五百旗頭真先生...復興支援の覚悟と現実政治への関わり

2025年03月06日(木)10時55分
蒲島郁夫+國分良成+御厨 貴+岸 俊光(構成:置塩 文)

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御厨 よくわかります。復興構想会議で僕は議長代理として彼とずっと一緒にいましたが、「大丈夫だ。防大は自分を支えてくれている」と時々言うんですよ。本当は気になっていたのだと思います。

國分 防大には自衛隊から来ている陸将の副校長(当時は「幹事」という呼称)がいるのですが、そのときの陸将の幹事が五百旗頭学校長と信念で必ずしも一致しないところもあった。

ところが、その彼が右翼団体の事務所に出向いて学校長罷免要求をめぐって直接交渉に行ったんですよ。自衛隊という組織で最も大事なことは、何があっても「一番上の大将は守る」ということで徹底的に忠誠を尽くしました。五百旗頭先生はそれで彼を信頼したみたいですね。

御厨 もう1つ大変だったろうと思うのは、防大の最後の1年間がちょうど復興構想会議と重なったので、会議には防大の公用車でお見えになる。秘書のような副官というのがついてくる。この副官は僕らには絶対に情報を漏らさないし、逆に僕らから集めたいろいろな情報を防大に戻って報告している。

五百旗頭先生もやがてそのことにお気づきになって、「副官には何もしゃべれないね」と。防大学校長と同時に復興構想会議議長を務めるのは大変なんだなと思いましたね。

國分 学校長の副官というのは事務官で、その日にあったことを、「何月何日の何時にどこで車を降りた」ということも含めて全部報告するのが義務です。その事務官も相当苦労しただろうと思います。五百旗頭先生はそれを見ていてちょっと気を遣われたのでしょう。

御厨 防大改革の話と絡めて1つお話ししますと、福田康夫内閣のときの防衛省改革会議[2007年12月~08年7月]を五百旗頭さんとご一緒しました。下請仕事を相当させられるのかと思ったら、そうではなかった。「改革の原案を書いてもらいたい」という話が出たとき、驚いたことに五百旗頭さんが手を挙げて「私が書きます」と言った。書いたものは、いかにも五百旗頭答申らしく、全部歴史なんです。

「現在を変えるために必要なことを知るには歴史を見なければいけない」と歴史に徹底的にこだわったので、防衛省の直接の改革には役に立たなかっただろうと思う。けれども、「改革に至るプロセスで、何が大事で何が大事でないかを歴史的に見ていこう」というのが非常によく出ていました。

いろいろな人が書いたものをまとめるのはあまり好きではなくて、自分の色を出したいというところもありましたね。

※第3回:孫にも陛下にも真剣勝負で挑んだ五百旗頭真先生...「失敗しても再生する」という日本観の原点とは?に続く


蒲島郁夫(Ikuo Kabashima)
1947年熊本県生まれ。ハーバード大学大学院Ph.D。筑波大学教授、東京大学教授を経て、2008年4月から24年4月まで熊本県知事を4期務めた。東京大学名誉教授。専門は投票行動論など。

國分良成(Ryosei Kokubun)
1953年生まれ。慶應義塾大学法学部教授などを経て、2012年から2021年まで防衛大学校長。専門は現代中国論、東アジア国際関係。著書に『現代中国の政治と官僚制』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞)など。

御厨 貴(Takashi Mikuriya)
1951年生まれ。東京大学名誉教授。専門は近代日本政治史、オーラル・ヒストリー。著書に『政策の総合と権力』(東京大学出版会、サントリー学芸賞)など多数。2018年紫綬褒章、2024年瑞宝中綬章。

岸 俊光(Toshimitsu Kishi)
1961年生まれ。毎日新聞学芸部の論壇記者、論説委員を経て、現在、アジア調査会事務局長。早稲田大学大学院博士後期課程修了。博士(学術)。著書に『核武装と知識人』(勁草書房)など。


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