Jeppe Gustafsson-shutterstock
しばしば経済学は「社会科学の女王」であると言われる。
物理学が「自然科学の王」と評されることとの対比であると言われるが、確かに経済学はその説明力、体系性、そして他領域や実務への応用や実装の貪欲さにおいて他の社会科学の追随を許さないことは明らかだ。
ノーベル賞には社会科学で唯一経済学賞が設けられ、その行方が世界的な話題になる。
経済学者はもっぱらグローバルな英語論文の世界で評価されることから、文系のなかでは一般メディアよりも「白い巨塔」に閉じこもりがちな印象もあったが、日本でも最近は違う。映像メディアやネットメディアで経済学者がオピニオンリーダーになったり、知見を活かした起業や新しいキャリアも注目されている。
一時期は経営学と絡めたビジネス書が人気だったが、最近はむしろ経済学と関連したそれのほうが人気なほどではないか。
いずれにせよ『アステイオン』101号の「コロナ禍を経済学で検証する」特集を一読して、改めて経済学の力強さを印象付けられた。本特集の論考、対談は今後の感染症対策にとどまらず、社会科学における経済学の地位や、現実政治や行政との関わり方を強く認識させる。
読者も日本のコロナ対策には様々な感想を持っているだろうが、本特集の付録資料にも収録される人口あたり死者数を基準とすれば、定量的に、そして総論としては「成功」であったことは疑う余地はあまりない。
そうはいっても経済、政策過程の正統性や合理性などに多くの課題が残っていることもまた間違いない。それは経済学の視点では、どのように読み解けるのだろうか。
本特集に収録される論考や対談はいずれも社会科学の観点でのパンデミックの検証、そして危機への備えと学界の関わり方を考えさせる。他の社会科学の研究者にとっても大いに参考になるはずだ。まず、なにより政策過程への経済学者の関わり方の記録としての側面だ。
大竹論文「感染症対策における日本の経済学(者)」や田中・土居対談「コロナ対策の『事後検証』」などにおいて、前者ではどのようにコロナ対策に経済学者が要望され、関わるようになったのかというごく基本的な、しかしこれまで断片的にしか公開されてこなかった経緯が体系的に紹介されている。
後者においては、「会計検査院の視点」という、論壇誌や新聞などでもなかなか目にする機会の乏しい知見が披露される。
vol.101
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