医療機関側は「公表すると患者が殺到する」「事前予約なしで来院するので対応に追われる」等とコメントするが(前掲の日本経済新聞より)、その分、公表した医療機関にしわ寄せがくることは容易に想像できる。
なお、一部の医療機関や医師会等がなぜ公表に後ろ向きだったのかは、この補助金の仕組みにも問題がある。
発熱外来診療体制確保支援補助金は、一言でいえば、発熱外来を開設して診療時間を確保したが、患者が来院しなかった場合の補償金である。患者が来院しなければ、補助金が満額となり、診察した患者数に比例して減額される。
例えば1日7時間(20人相当)発熱外来を開設した場合、患者が来なければ1日当たり27万円、患者が10人の場合は、補助金は13.5万円となり、診察した10人分については診療報酬での支給となる。
しかし、診療すればするほど、患者への検査体制、陽性者の療養の場合の手続きなど診療報酬を取り崩す形での手間が当然かかる。であれば、「開設をしても周知せず来院者はほとんどなし」という開店休業状態が医療機関の収益上は最も合理的な選択となってしまう。
伊藤由希子(Yukiko Ito)
1978年神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。米国ブラウン大学経済学博士。東京学芸大学准教授を経て、現職。専門は医療経済学、国際経済学。日本各地の地域医療における病院再編問題に取り組む。内閣府規制改革推進会議「健康・医療・介護」WG専門委員・令和臨調「財政・社会保障部会」主査として社会保障改革に取り組む。
『アステイオン』101号
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
CCCメディアハウス[刊]
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アステイオンvol.101トーク「コロナ禍を経済学で検証する」
今回のアステイオントークでは、コロナ禍で果たした経済学の役割を振り返るとともに、経済学の専門知に対する他分野や世間からの信頼、インターネット社会における専門知の立ち位置について検討します。寄稿者から、医療経済学が専門の伊藤由希子氏、新型コロナ有識者会議のメンバーを務めた大竹文雄氏、読者を代表して科学と社会の関係に詳しい横山広美氏の3名をお迎えし、編集委員の土居丈朗氏の進行で予定調和なしのトークを繰り広げる予定です。
◆日時:2025年1月20日(月)16:00~17:30
◆登壇者 ※五十音順
伊藤由希子氏(津田塾大学教授)
大竹文雄氏(大阪大学特任教授)
土居丈朗氏(慶應義塾大学教授、アステイオン編集委員)※進行
横山広美氏(東京大学教授)
◆配信
Zoomウェビナーでの配信を予定しております(無料)。こちらのフォームより参加登録いただきましたら、配信URLが届きますので、当日ご視聴ください。なお、アーカイブ配信は予定しておりません。
◆登壇者略歴
伊藤由希子氏(津田塾大学総合政策学部教授)
1978年神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。米国ブラウン大学経済学博士。東京学芸大学准教授を経て、現職。専門は医療経済学、国際経済学。日本各地の地域医療における病院再編問題に取り組む。内閣府規制改革推進会議「健康・医療・介護」WG専門委員・令和臨調「財政・社会保障部会」主査として社会保障改革に取り組む。
大竹文雄氏(大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授)
1961年生まれ。京都大学経済学部卒業。大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程退学。博士(経済学)。大阪大学社会経済研究所助教授、同大学院経済学研究科などを経て、現職。専門は労働経済学・行動経済学。著書に『日本の不平等――格差社会の幻想と未来』(日本経済新聞社、サントリー学芸賞)、『競争社会の歩き方 自分の「強み」を見つけるには』(中公新書)、『あなたを変える行動経済学――よりよい意思決定・行動をめざして』(東京書籍)などがある。2020年~2023年、新型インフルエンザ等対策有識者会議・新型コロナウイルス感染症対策分科会委員をつとめた。
土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部教授、アステイオン編集委員)※進行
1970年生まれ。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、現職。専門は財政学、経済政策論など。著書に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学(第2版)』 (日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)、『平成の経済政策はどう決められたか』(中央公論新社)など。
横山広美氏(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授)
1975年生まれ。東京理科大学大学院理工学研究科満期終了。博士(理学)。東京工業大学特別研究員、総合研究大学院大学上席研究員、東京大学大学院理学系研究科准教授を経て、現職。専門は科学コミュニケーション・科学技術政策。著書に『なぜ理系に女性が少ないのか』(幻冬舎)など。
vol.101
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