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布製マスク配布事業、持続化給付金事業、病床確保事業、巨額の予備費など、新型コロナ対策には財政支出が多額に投じられたが、その財政運営に会計検査院がメスを入れたことが話題になった。
その一端について、田中弥生・会計検査院長に本誌編集委員の土居丈朗・慶應義塾大学教授が聞いた。『アステイオン』101号の特集「コロナ禍を経済学で検証する」より「コロナ対策の『事後検証』――田中会計検査院長が語る」を3回に分けて転載。本編は第2回目。
※第1回:布製マスクの「製造過程」になぜメスを入れたのか?...田中弥生・会計検査院長に聞く「コロナ対策の事後検証」 から続く
土居 先ほど、確保病床と休止病床に対して1日当たり最大43万6000円の補助金が支払われた。さらに患者を受け入れた際には看護師の人件費等として、1ベッド当たり1500万円が支給されたという話がありましたが、この病床確保事業の補助金の適正性についてはいかがでしょうか。
田中 財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)でも医療機関の医業収支の問題が議論されました。我々も医業収支の調査を行い、データを統計的に解析しました。その結果、許可病床数に占める確保病床数・休止病床数の割合と医業収支の増減率には正の相関が見られ、補助金を得た病院の収支が改善されたことが明らかになりました。
では単価設定はどうだったかというと、確保病床に対する1日当たり最大43万6000円は、治療が始まると診療報酬に切り替わります。つまり、確保病床の間には病床のコストは発生しません。確保病床と休止病床の単価は同額でしたが、そこには明確な基準は示されていませんでした。
そもそも補助金の趣旨は、診療報酬が得られなかった場合の機会損失を補塡するためと説明されています。しかし、算定方法が曖昧で、ほとんどの病院は最高額の単価で計算して申請していました。
土居 病床確保事業の補助金が医療機関の収支改善につながっていたことが、単なる類推ではなく、データによって裏付けられたというのは重要です。
しかし、少なくとも病床の価値や補償額については、通常の診療報酬を基にして、もう少し正確な基準があっても良かったはずです。厚生労働省はその計算ができたのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
田中 我々も各病床の入院コロナ患者1人1日当たりの診療報酬額と病床確保料上限額を比較しましたが、病床確保料が診療報酬額を下回る場合も上回る場合もあり、すべての病床が収支的に儲かっているわけではありませんでした。ですから、まさにケース・バイ・ケースでした。
しかし、次のパンデミックには今回の教訓を基にきちんと算定方法を決めていただきたいという思いで、所見を書きました。ところで、そもそもこの確保病床に対して1日当たり最大43万6000円という額はどこから出てきたのでしょうかね。
土居 おそらく厚生労働省も当たりはついていたと思います。緊急時であったことや、コロナ患者に接する医療従事者の報酬設定が各医療機関に委ねられていたため、ミスマッチが生じたのだと思います。
病床には一定の金額が設定されており、診療報酬は診療行為に対して支払われますが、医師や看護師にどう分配するかは医療機関の自由です。これは実は平時からの日本の診療報酬体系そのものの根本問題だと思います。
そうした診療報酬体系に引きずられることなく、患者を1人受け入れるごとに医師や看護師に支払う報酬をきちんと計算し、病院の取り分も考慮した上で補助金が支払われるという形であれば、もう少し妥当な額になっていたと思います。
田中 なるほど、これまでにない事態だったため、医療機関側もどう計算していいか迷ったということでしょうか。そして、土居先生がご指摘の点は、病院経営に関わる問題でもありますよね。
vol.101
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