さて現代。デジタルによって幸福になれると思い込んでいた人間が「デジタル社会は自分を縛る枷だと思い至った瞬間から、そこに身を置くことが苦しみとなり、そこからの脱出を願うようになる。それが、輪廻から逃れたいという釈迦の動機と重なります」と佐々木氏はいう。
一方で、ブッダの言葉とAIを組み合わせて現代人の悩みに答えるブッダボットの開発が進んでいる。今や全国の寺院から法話がYouTubeで配信されるようになり、私も「ながら聞き」することが日常となった。
伝え手や手法によって仏教は縦横無尽に表情を変える。受け手側の器も問われてくるだろう。今後デジタル社会が進んで仏教の垣根が低くなるにつれ、「釈迦の仏教」も新たな局面を迎えざるをえない。
ひるがえって、誰しもが歳をとり、老・病・死が我が事としてせまってこざるを得ない人間と同様、多くの環境問題や終わらない戦闘など、近代までは発展をし続けてきたかにみえるこの世界や地球も、どこか「生きる」ことに苦しみ、「老い」や「病」を抱え、「死」(自滅?)に向かっているとすら感じさせる。
人の心のありようで地球がどれだけ平穏を取り戻せるか。武力によらず説得のみによって広まった宗教は仏教だけと中村氏は語る。寛容と慈悲を選択や決定の原則とすれば争いが起こるわけもなく、執着や怒りや恐れなどからくる戦いもなくなる筈だ。
欲望を制御できれば環境破壊に歯止めをかけうるだろう。心が変われば世界が変わる。そこにもまた、釈迦の仏教の可能性は無限に広がっていると思われるのである。
ホンダ・アキノ(Akino Honda)
大阪府生まれ。奈良女子大学文学部史学科卒業後、京都大学大学院で美学美術史を学ぶ。修士課程を修了し京都新聞社に入社。支局記者を経て出版社へ。雑誌やムック、書籍の編集に長年携わったのち2020年フリーとなる。仏教に導かれて、今は日本の飛鳥時代と東アジアの関わりなどについて調べている。著書に『二人の美術記者――井上靖と司馬遼太郎』(平凡社)。最新刊は『夏目漱石 美術を見る眼』(平凡社)。
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