ポピュラーカルチャーのコンテンツの素材として「発見」された歴史が社会へと開かれていく。
一方のウォッチメンシリーズは、現代アメリカを舞台にした政治的SFで、例えば冷戦体制が終わらずリベラル政権が実質独裁化し、地下組織で極右が台頭している...など社会風刺をふんだんに散りばめている。
こちらもまた、現実社会で明るみに出てきた人種差別の負の歴史を、公のものとして「パブリック」に取り戻し語るものである。歴史学の用語ではこうした見方を「パブリック・ヒストリー」という。
歴史とは、歴史書や教科書に書かれたものばかりではなく、映画やテーマパークなど人々の娯楽の中でも作られるものであり、人々の歴史認識を生み出す効果の点では、それも「公に語られる歴史」なのである。
10月に刊行した拙著『楽しい政治 「つくられた歴史」と「つくる現場」から現代を知る』では、本稿で触れた『ウォッチメン』がもつパブリック・ヒストリーとしての力について、トランプ元大統領など現代アメリカ社会についても触れながらより詳細に解説している(第1章)。
先に挙げた『ノマドランド』『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』『トイストーリー4』のほか、『アメリカン・ユートピア』『コンクリート・カウボーイ』などの作品も各章で取り上げており、現代アメリカ文化から様々な社会問題について論じている。
付録のキーワード事典と併せて、「ポリティカル・コレクトネス」や「多様性」「ブラック・ライブズ・マター」や「陰謀論」「インターネット・ミーム」などといった文化の現在を学ぶ参考書として編んだので、本稿にご関心を持ってくださった方はそちらもご笑覧ください。
[映像作品]
Killers of the Flower Moon Directed by Martin Scorsese, 2023 (Paramount Pictures, Apple Original Films).
Watchmen (TV series), Directed by Damon Lindelof, 2019 (White Rabbit, Paramount Television, DC Entertainment, Warner Bros. Television; HBO)
小森真樹(Masaki Komori)
武蔵大学人文学部准教授、ウェルカムコレクション及びテンプル大学歴史学部客員研究員。専門はアメリカ文化研究、ミュージアム研究。著書に、『楽しい政治』、「美術館の近代を〈遊び〉で逆なでする」「ミュージアムで『キャンセルカルチャー』は起こったのか?」。展示に、「美大じゃない大学で美術展をつくる vol.1|藤井光〈日本の戦争美術 1946〉展を再演する」、編集企画に『-oid』など。「ミュージアムで迷子になる」「包摂するミュージアム」「『暮らし』が語るアメリカ社会」連載中。
「現代アメリカ合衆国における科学観の再定義:博物館展覧会の利用実態の分析から」にて、サントリー文化財団2015年度「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」に採択。
Killers of the Flower Moon: The Osage Murders and the Birth of the FBI
David Grann[著]
Vintage[刊]
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『花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』
デイヴィッド・グラン[著]
倉田真木[訳]
早川書房[刊]
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vol.101
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