ドラマ版『ウォッチメン』のエピソードは空爆の場面から始まる。これは1921年にオクラホマ州タルサで起こった黒人大虐殺事件である。
20世紀になって発見された油田によって「世界の石油首都」と呼ばれ、その結果アメリカ最大の黒人富裕層が住む「黒人のウォール街」と謳われたタルサで悲劇は起こった。
奴隷解放から僅か半世紀余りでの黒人の富裕化は白人との摩擦を生み、冤罪の疑いが強い白人女性への小さなハラスメント事件をきっかけに白人コミュニティから暴動が起こる。翌日には黒人区への放火と略奪、そして空爆までへと至った。
黒人富裕層を根絶やしにするように、一夜にして黒人のウォール街は消え去った。
300名以上の死者を出したとも言われるこの「事件単位ではアメリカ史上最悪の人種暴力事件」は、実は1990年代に至るまで米国内でもほとんど知られていなかった。
地元の移住誘致などに悪印象であることを恐れた行政や地域住民がこの件を積極的に語らず、当初から報道も歪んだ情報を伝えてきた。「暴動」扱いされたため免責された保険も下りず、被害者は補償もされてこなかった。
2001年に市が公式見解で認め謝罪と賠償をして、初めてその歴史が公式なものとなり、教科書でも語られ始めた。『ウォッチメン』はこの悲劇を、人種差別の歴史としてセンセーショナルに描いたのだ。
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