『アステイオン』は1年に4回発行する季刊誌として始まり、51号からは1年に2回という頻度で発行されている。このゆったりした刊行の間隔が、この雑誌の内容の特色にも影響していると言えるだろう。月刊誌では、その時々の最新の話題をとりあげるので、短い年数に限って現実を切り取った論考が、どうしても増えてしまう。それに対して、歴史上の背景も含め、長期にわたる展望のうちに現在の諸問題を位置づけながら論じてゆく。目次に載せる主題の選び方も、個々の論考の内容も、そうした長い期間を念頭においたものになっているのが、『アステイオン』の一貫した特色と言えるだろう。
そうした展望の上で、政治・経済・社会から文化・藝術にわたるまで、幅ひろい分野の話題を集める「総合誌」として本誌は続いてきた。近年の新しい傾向を示すのは、第95号(2021年11月)の特集「アカデミック・ジャーナリズム」ではないか。
アカデミズムの側から見れば、最新の研究動向をそのまま紹介するのではなく、一般読者と共有できるような話題の入口を考えること。ジャーナリズムの方にとっては、目の前の現実をそのまま伝えるのではなく、学知による裏づけを通じて、より深い内容の報道を心がけること。それは従来も『アステイオン』に見られた姿勢ではあるが、そのことをはっきりと自覚することが、現在の言論状況において広がっている両者の間の距離を縮め、双方の知見を交錯させてゆく鍵になる。
この姿勢は、現在のメディア環境においては稀少な試みと言えるだろう。本誌の巻頭には、「都会らしさ」という「アステイオン」の意味を説明する短い文章が、創刊号からほぼ一貫して掲載されている。そのなかには「都市(アステュ)」について、こんな説明が見える。「蒼穹のもと石造りの孤立を誇りながら」。
この文章は山崎正和が執筆したものであるが、この都市の「孤立」した像は鮮烈である。気候の変動や時々の風向きによって、不断に形を変えてゆく沙漠の光景のなかで、しっかりと大地に基盤をすえながら存続する「石造り」の都市。自然環境のなかにおける、その栄光ある孤立が、さまざまな知識や文化の交流と洗練を支えている。自由な言論が活発に展開される、そうした「都市」のような空間として、今後も『アステイオン』は変化を重ねながら続いてゆくことだろう。
苅部 直(Tadashi Karube)
1965年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。専門は日本政治思想史。著書に『光の領国 和辻哲郎』(岩波現代文庫)、『丸山眞男』(岩波新書、サントリー学芸賞)、『鏡のなかの薄明』(幻戯書房、毎日書評賞)、『基点としての戦後』(千倉書房)、『小林秀雄の謎を解く』(新潮選書)など。
『アステイオン』100号
特集:「言論のアリーナ」としての試み──創刊100号を迎えて
公益財団法人サントリー文化財団
アステイオン編集委員会 編
CCCメディアハウス
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