アステイオン

80年代

『東京人』『アステイオン』『外交フォーラム』...3誌を生んだ「時代の機運」と共通点

2024年09月25日(水)11時00分
高橋栄一(都市出版『東京人』編集長)

最後に「脱イデオロギー」について――。山本昭宏氏が「知的感興のための技術(アート)」(『アステイオン』100号)で、 都市・国際性・脱イデオロギーを『アステイオン』の特徴として挙げている。

豊かな時代になると、イデオロギーによる激しい分断と闘争に殉じるよりもグレーなままにしておく知恵が働くようになる。だが今日、80年代半ばの日本社会と比較すると、はるかに格差が広がり、分断・亀裂が進行し、民主主義が機能不全に陥り、危険な状態になっているかのように見える。しかし、より厄介なのは、イデオロギーの根源が「感情」だからではないだろうか。

『アステイオン』創刊号の巻頭言で山崎さんは「都市らしさとは、生の感情の沸騰でもなく、硬直したイデオロギーの観念でもない」と書いている。まさに硬直したイデオロギーの不毛な対立を続けてきた戦後論壇との決別宣言であり、目指すは「新しい知と情と行動の洗練」であった。それこそが都市らしさ(アステイオン)なのだろう。

サロンでは多様な意見が許されなければならない。もちろん、対立し相容れない見解もそうだ。繰り返しになるが、罵声や怒声は似合わない。それらは生の感情の沸騰である。山崎さんが『アステイオン』の編集会議の後は必ず酒を共にするとどこかに書いていたが、社交とはそういうものだろう。

生前の粕谷が時に口にしていたのは、西部劇のセリフ「彼の歌は信じない。しかし、彼は信じる」という言葉だった。高坂正堯さんは自ら「懐疑的保守」と宣言し、極力断定を避けたように見える。

それらの言葉を思い出す度、汗顔の至りであるが、その至りを20年続けていられる軽薄ささえも受け入れてくれるのが、都市の良さかもしれない。


高橋栄一(Eiichi Takahashi) 
1956年東京生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。81年東芝入社。86年に雑誌編集に転じる。東洋経済新報社などを経て96年都市出版入社。2001年『東京人』編集長。2002年社長。


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 『アステイオン』100号
  特集:「言論のアリーナ」としての試み──創刊100号を迎えて
  公益財団法人サントリー文化財団
  アステイオン編集委員会 編
  CCCメディアハウス


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