アステイオン

対談

ヨーロッパは自由、平等を米先住民から学んだのに隠した...デヴィッド・グレーバーの遺作『万物の黎明』から受けた「知的なパンチ」

2024年08月07日(水)10時25分
小埜栄一郎+松田史生

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左から小埜栄一郎氏(サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社主幹研究員)、松田史生氏(大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻教授)

「そういうもの」を許さないグレーバーの主張の背景

小埜 ところで、「そういうもの」という妥協や諦念といった姿勢を許さない、グレーバーらの強い動機はどこから来ているのでしょうか?

酒井氏の「訳者あとがき」で、筆者である2人のデヴィッドはともにアウトサイダーの感覚は抜けなかったとあります。定説に対するカウンターアクション、つまりアカデミアにおける彼らの立ち位置が執筆の動機にも見えます。

アカデミアにおける「同質化の圧力」に迎合しない格好良さがあり、先行するダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』やハラリの『サピエンス全史』などのベストセラーに影響を受けているのは明らかです。

松田 長い時間をかけて発展してきた現代社会は合理性と必然性があり、その結果、生じた不平等などの課題を解決するのは難しい、などと私たちは諦めがちです。

しかし、現在から過去を見るから「そう見えているだけ」であることを『万物の黎明』は気づかせてくれます。社会は歴史的な必然でも社会進化の最前線でもないのだから、よりよい社会を構築できるはず...。読んでいると「めいっぱい考えよう!」と背中を押されて元気が出てきます。

これはグレーバーが社会を宿命や必然として諦める気が全くない、筋金入りのアナーキストだからです。根源的な問いを立てることができる稀有な研究者であり、社会を変えることができるという強い信念を持った活動家だからでもあります。


※後編:農耕開始から国家誕生までの4000年に何があったのか...デヴィッド・グレーバーの遺作『万物の黎明』の自然科学研究への影響 に続く


【参考文献】
1)『ブルシット・ジョブ──クソどうでも良い仕事の理論』(著)デヴィッド・グレーバー (2020) 岩波書店
2)『銃、病原菌、鉄──1万3000年にわたる人類史の謎』(著)ジャレドダイアモンド(2012)草思社
3)『サピエンス全史──文明の構造と人類の幸福』(著)ユヴァルノアハラリ(2023)河出書房


小埜栄一郎(Eiichiro Ono)
1974年生まれ。岡山大学農学部卒業。奈良先端科学術大学院大学バイオサイエンス研究科分子生物学専攻博士前期課程修了。博士(バイオサイエンス)。2000年サントリー株式会社に入社、現在、サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社主幹研究員、静岡大学客員教授、科学技術振興機構さきがけ領域アドバイザー(植物分子の機能と制御)、ソムリエ(J.S.A)。専門は酵母と植物のゲノムとメタボリズム研究。趣味は植物観察と雑魚獲り。

松田史生(Fumio Matsuda)
1974年生まれ。2002年京都大学農学研究科応用生命科学専攻博士課程を修了、学位を取得後は、日本学術振興会特別研究員、ポスドク、理化学研究所植物科学研究センター研究員、神戸大学自然科学系先端融合研究環重点研究部准教授、大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻准教授を経て、2018年より同教授。専門は代謝工学。趣味はバイクと釣り。


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万物の黎明
 デヴィッド・グレーバー /デヴィッド・ウェングロウ [著]
 酒井隆史 [訳]
 光文社[刊]

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