エリス マジョリティによる規範には潜在的な暴力性があります。そのなかで、どうにか平準化・均質化に抵抗することが多様性を生み出し続ける。その意味では、境界というのはなくなってはいけないと考えています。
三浦雅士さんも「越境とは何か」のなかで、普遍的な空間はないということをはっきりとおっしゃっていました。
自己とは常に他者から生まれるのであるから、他者がいないとそもそも文化も生まれない、越境とは、つまるところ自己という他者への越境であると。自分を発見しつつ、そこで新しいものが生まれていくのだ、ということでした。境界について、どこまでも問い続けていく必要がありますね。
張 境界があるというのは、言い換えれば差異とか多様性があるということなんですよね。越境によって様々な対流が起きていて、それが新たな創造につながります。その意味では、境界の存在自体は悪いことではないと思います。
グローバル化が急速に進んだ時代においても、実は同時にもう1つの動きはあるというふうに指摘されています。これがローカル化ですね。その意味では、そもそも境界というものはこれからも消えることはなく、むしろ境界があるからこそ芸術に新しい活力が生まれるのではないかと思います。
本日はみなさんありがとうございました。
エリス俊子(Toshiko Ellis)
名古屋外国語大学教授、東京大学名誉教授。1956年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科比較文学比較文化博士課程満期退学。Ph.D. (オーストラリア、モナシュ大学)。東京大学大学院総合文化研究科教授などを経て、現職。専門は比較文学、日本近代文学。著書に『萩原朔太郎』(沖積舎)、『越境する想像力』(共著、人文書院)、Pacific Insularity(共著、立教大学出版会)など。
長木誠司(Seiji Choki)
東京大学名誉教授、音楽評論家。1958年生まれ。東京大学文学部卒業後、東京藝術大学大学院博士課程修了。博士(音楽学)。東邦音楽大学・同短期大学助教授、東京大学大学院総合文化研究科教授等を歴任。オペラおよび近現代の音楽を多方面より研究。著書に『前衛音楽の漂流者たち』(筑摩書房)、『フェッルッチョ・ブゾーニ』(みすず書房、吉田秀和賞)、『オペラの20世紀』(平凡社、芸術選奨評論等部門受賞)など。
三浦 篤(Atsushi Miura)
大原美術館館長、東京大学名誉教授。1957年生まれ。東京大学教養学部教養学科フランス科卒業。同大学大学院美術史学博士課程中退。パリ第4大学美術考古学研究所で学び、博士号取得。東京大学教養学部助教授、同総合文化研究科教授を経て、現職。専門は西洋近代美術史、日仏美術交流史。著書に『近代芸術家の表象』(東京大学出版会、サントリー学芸賞)、『移り棲む美術』(名古屋大学出版会、芸術選奨評論等部門文部科学大臣賞)など。
張 競(Kyo Cho)
アステイオン編集委員・明治大学教授。1953年上海生まれ。華東師範大学卒業、同大学助手を経て1985年に来日。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。著書に『海を越える日本文学』(筑摩書房)、『異文化理解の落とし穴』(岩波書店)、『詩文往還』(日本経済新聞出版)など。
『アステイオン』99号
特集:境界を往還する芸術家たち
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
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