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学問

面白半分に始めた「夜の街」研究で「帰還」を果たす...「知の営み」の宇宙速度モデルとは?

2023年10月25日(水)11時20分
谷口功一(東京都立大学法学部教授)
地球

imaginima-iStock


<研究の「選択と集中」が話題になったが、学問とは一見バラバラに見える個別の研究が相互に有機的な連関を現しては戻り、円環を描いていくもの>


以前から「学問的な営み」に関して私が思い描いている、ひとつのモデルがある。――それは「宇宙速度(cosmic velocity)」だ。

この道をゆく者は、まずは学部を卒業して大学院の修士課程に入るが、最初の関門は修士論文である。

修論は割とタイトな期限内(通常は2年間、目一杯引き延ばしても4年くらいが上限か)で書き上げなければならず、これが仕上がらなかったら、その先の研究者としての道は閉ざされることになる。このモメントを私は「第一宇宙速度」の獲得によく譬えてきた。

地球から打ち上げられ物体が重力に抗して衛星軌道に留まり、地球のまわりを周回出来るようになる速度だ。この修論提出(=修士の学位取得)を経て、博士課程に入ることで、初めて研究者としての〈航海〉が始まることとなる。

次の段階は「第二宇宙速度」の獲得である。

これは、博士論文やそれに匹敵するボリュームのものを書き上げることによって得られるが、最も重要なポイントは、学問上の師の影響から脱して自分自身の「問題」を手に入れ、自らの意思で全研究を推進してゆくことを意味する。自分だけの問題を手に入れ、自分の研究を行ってゆくのだ。

自らを培った母なる(父なる?)地球の重力圏から完全に脱し、他の惑星へと航(わた)ることが出来るようになる。

最後の段階では、狭義の専門枠組みをも相対化し、自分自身を始祖とする問題系を創り出すこととなる。「第三宇宙速度」は恒星たる太陽の重力場からも解放され太陽系という恒星システムの外、星間空間(Interstellar Space)へと飛び出してゆくこととなるのである。

我々人類が外宇宙に向けて放った人工物で初めて太陽を中心とする恒星システムの外へと脱出したのは、1977年に打ち上げられた惑星探査機ボイジャー1号であるが、それは2012年に太陽系の外側に到達したという。

先日、『日本の水商売 法哲学者、夜の街を歩く』(PHP研究所)と題し、スナックを中心とする夜の街についての本を上梓した。

今回の本は2021年末から2022年春までのコロナ禍の中での一年余の記録ともなったが、本書をもって、これまで最も多く訊ねられた――「法哲学者なのに、なぜスナックの研究などしているのですか?」という問いへの、ひとつの答えが出せたのではないかと思っている。

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