ホフスタッターが描き出したのは、建国期アメリカの在野政党が、陰謀や政府転覆に関与する反体制勢力としてではなく、体制内部の合法的な批判者として正統性を獲得していく史的過程であった。
単純な選挙権拡大の過程にではなく、「意見の複数性をいかに制度的に担保するか」という点にデモクラシー確立の要件を見いだした著者の鋭い視角には、米国社会のコンフォミティ(同調圧力)に人一倍敏感であった歴史家ゆえの問題意識を読み取れよう。
ナショナル・デモクラシーという前提や、人種・ジェンダーの観点の欠落など、現在の視点から見ればその陥穽を批判することは容易いが、今なお繰り返し読まれるべきホフスタッター晩年の重要な著作である。
本書に翻訳がないのは誠に残念なことである。
遠藤寛文(Endo Hirobumi)
1986年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。日本学術振興会特別研究員、フルブライト奨学生、神奈川大学外国語学部特任助教を経て現職。専門はアメリカ政治史。主な業績に『改革が作ったアメリカ──初期アメリカ研究の展開』(共著、小鳥遊書房、2023年)、「強制徴募とアングロフォビア――モンロー-ピンクニー条約(1806年)批准拒否騒動」(『アメリカ太平洋研究』21号、2021年)などがある。「北米辺境から見る19世紀初頭アメリカの社会不安と自意識」にて、サントリー文化財団2019年度「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」に採択。
『政党制の理念――アメリカ合衆国における合法的反対勢力の台頭(1780-1840)』
(The Idea of a Party System: The Rise of Legitimate Opposition in the United States, 1780-1840)
リチャード・ホフスタッター/Richard Hofstadter[著]
University of California Press[刊]
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vol.101
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