私が自分の表現で説明するならば、同誌の今回の特集は「中華」という存在を論じるにあたり、
・漢字文化圏に包摂されるものの、広義においても「中国」(China)とは異なる地である朝鮮・日本・琉球・ベトナム
・漢字文化圏には含まれないものの、中華人民共和国という国民国家の領域にその地理的空間の一部(もしくは大部分や全部)が含まれるモンゴル・チベット・新疆
・漢語を使用し政治的にも広義の「中国」に含まれ得るが住民の自己認識が中華人民共和国国民の価値観と同一だとはいえない香港・台湾
という周縁地域をあえて取り上げ、主に歴史的視点からそれらの「中華」との関わりを概観していく構成となっている。
文化なり地理的位置なり人々のアイデンティティなりが中華人民共和国に包摂されきらない存在をあえて並べることで、それに非ざるものとしての「中華」の姿を浮かび上がらせるという、トリッキーな作業がなされているのだ。
巻頭言において、今回の特集を取りまとめた岡本隆司氏は「中国」「中華」という漢語を、固有名詞ではない「中央・中心というくらいの語義」の言葉であると指し示す。
「中華」は、そもそも他者との明確な境界を画し難い概念だ。ゆえに、その影響を強く受けてきた周縁の視点から「◯◯には非ず」という要素を示し続けることで、空虚な中心たる中華の形を描き出す手法が有用だ。
私たちにとって、なんとなく自明の存在であるかに思える「中華」の実態は、ことのほか茫漠としている。
ここからすこし生々しい話に移る。2023年現在の世界の大きな懸念は、中国大陸に位置する一個の国民国家にすぎない中華人民共和国が、本来は曖昧模糊とした地理的・文化的概念であるはずの「中華」に対して、自己の固有の専有物であるかのように誤解していることに求められる。
しかも、今世紀に入り国力を著しく増大させた中華人民共和国は、この誤解に基づき想像された「中華」の形に合致するよう、現実の側を修正するべく動き出すようになった。習近平政権の「中華民族の偉大なる復興」というスローガンは、その動きを実質的に象徴する言葉でもある。
結果として生じたのが、新疆におけるテュルク系ムスリムに対する強圧的な同化政策やモンゴル族・朝鮮族らへの漢語教育の押しつけ、2020年6月の国家安全法の成立を境とする香港の「内地化」の著しい加速、台湾に対する恫喝的な振る舞いといった、近年の中華人民共和国の行動だった。
vol.101
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