山崎先生自身がアメリカに滞在し、戯曲を上演した際の体験談も折に触れて話してもらった。
ニューヨークの演劇プロダクションの話、オーディションを受ける役者のアグレッシブさ、お金のない学生が旅行するときのアドバイスなど。
スヌーピーが登場するチャールズ・シュルツの「ピーナッツ」も、アメリカ社会の縮図を表現しているとよく話題に上った。
評論や戯曲はとても論理的で難解な一方で、観客としての山崎先生はロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』のような、ロマンティックな作品がお気に入りだったようだ。
授業中にも、シラノのセリフに「ここが格好いいんだよ」とファンさながらに解説していたのが印象的だった。
ロスタンの作品をもとにしたミュージカル『ザ・ファンタステックス』もかわいらしいラブロマンスだが、ニューヨークの劇場街の説明で必ずと言っていいほど登場し、劇中歌「Try to Remember」の一節なども口ずさんで紹介してくれた。
1992年、山崎先生の戯曲『獅子を飼う』が神戸で上演された。秀吉を獅子に例え、食い殺されそうな緊張感のなかでそれを飼いならそうとする利休という複雑な関係を描いた作品だ。
ちょうどその年に卒業する学生が、先生への記念品として、劇になぞらえてライオンのぬいぐるみをプレゼントしたところ、「決して食べないようにします」と嬉しそうに受け取られていた。
今にして思うと、多忙な中でも学生とのかかわりをとても大事にされていたのだろうと思う。
手取り足取り指導はしないが、学生からの相談はきちんと聞いてアドバイスをくださった。ニューヨークの演劇専門の書店を教えてくれたり、よかれと貸してくれた分厚い洋書を、泣きそうになりながら辞書を片手に必死で読んだことなどが思い出される。
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