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キャリア

好きなことは仕事にできない? 夏目漱石も語っていた「現代人と同じ悩み」

2023年05月24日(水)08時09分
岡本佳子(神戸大学大学院国際文化学研究科講師)

推奨されてはいるかもしれないが、日本では何となく目標やゴールを「諦めた」というように考えて、躊躇する人もまだ少なくないだろう。

しかし、クランボルツのキャリア理論「計画された偶然性」でも指摘されているように、目指している目標やゴールに対して逆算しながらキャリアを進めようとしたところで、実際のところキャリアはその多くが偶然に左右されている。

しかし偶然だからと言って何もしなくて良いのではなく、想定外のチャンスをつくって活用するために常にマインドをオープンにしておくことが大事で、それによって思いもよらないチャンスや幸運を掴むことだってある。

自分は冒頭の研究者仲間に、「研究職ポストを得るための話」、つまり困難を乗り越えて目標に向かって真っすぐに突き進んでいくキャリア形成のアドバイスはしたが、方向転換や「寄り道」を勧めることはしなかった。

だが、もし特性を生かすことができそうな様々な可能性を提示していたら、ひょっとしたら本人の気持ちも少しは楽になっていたかもしれない。自己本位でありつつ他人本位でもあるような働き方だって、現代にはあるかもしれないのだ。

一旦大学から外に出ていた割には、いつの間にか筆者もオープンなマインドを忘れて、研究者は苦労しなければならない、職業はこうあるべき、という物語にいつの間にか固執してしまっていたのだろう。

そのような思い込みや物語を解きほぐして様々な可能性を自分で探せるようになること、それが漱石が構想した大学での職業学講座に期待していたことかもしれないし、今や現実となって存在している、諸大学でのキャリア教育で求められていることなのだろう。


岡本佳子(Yoshiko Okamoto)
神戸大学大学院国際文化学研究科講師。博士(学術)。一般社団法人日本保全学会編集・国際担当職員、東京大学教養学部附属教養教育高度化機構社会連携部門特任助教、同特任講師を経て現職。キャリア形成に関連する著作に「人文科学系のポスドクが日本保全学会で勤務した話」『保全学』15巻3号(2016年)、『東大キャリア教室で1年生に伝えている大切なこと──変化を生きる13の流儀』(標葉靖子・中村優希との共編、東京大学出版会、2019年)。「ハンガリーと日本の文化「交流」史──世紀転換期の文学を中心に」にて、サントリー文化財団2012年度「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」に採択。


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「道楽と職業」
社会と自分――漱石自選講演集』所収
 夏目漱石[著]石原千秋[解説]
 ちくま学芸文庫[刊]

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