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民主主義体制下において、国内世論は外交政策にどの程度影響を及ぼすのか?
民主主義における国内世論と外交政策との関わりという問題は、各国の外交政策を語る上でしばしば取り上げられる重要な論点である。国内世論は、外交政策に対してどのように作用し、どの程度実質的な影響を及ぼすのだろうか? ウォルター・リップマンの『世論』(1922年)を出発点として以下で考えてみたい。
ウォルター・リップマンの『世論』は、政治的意思決定において大衆が果たす役割についての考察であり、社会科学において今日でも幅広く引用されている古典である。
リップマンは、個人が日常からかけ離れた公的事象(例えば政策決定・国際情勢等)を直接経験することはできないため、それらに関して全ての情報を収集し、自らの意見を形成することは不可能であるという事実から議論を展開した。
その上で、世論とは、限られた情報に基づいて形成された人々の世界観の総体であるとし、このように形成された大衆の意志は変化しやすく、一貫性を欠くことは明らかであると論じた。
彼自身の後の著書でより具体的に議論されるが、以上のような世論の性質を踏まえれば、外交政策決定過程において、政策決定者は世論をそこまで考慮せず、またその必要もないため、「世論」が外交政策に対して実質的な影響を及ぼすことはほとんどないという結論を提示した(所謂アーモンド=リップマンのコンセンサス)。
リップマンの議論は、政策決定者は一方的に世論を無視、もしくは抑圧することで外交政策を推進していくという、言わばトップダウン的なモデルを想定しており、国内世論が外交政策に対して及ぼす影響を考える際に、長い間定説として考えられてきた。
これに対して、1960−70年代のベトナム戦争を機に、世論と外交政策の関係について、ボトムアップの観点から反論が展開された。つまり、世論は外交問題や国際情勢に対して合理的かつ思慮深く反応しており、民主主義制度における代表制を通じて、適切に外交政策に反映されているというモデルである。
とりわけ現代において情報技術の発達やメディアの多様化が著しく進んだことで、リップマンが問題視したメディアによる中央集権的な情報のコントロールは以前よりも格段に弱まりつつある。
これを受け、政策決定者と世論との間の情報の非対称性は確実に小さくなってきており、世論が外交政策に対してより実質的な影響力を及ぼしうる基盤は整ってきたといえよう。
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