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国際政治学

「プーチンの戦争」が我々に残した教訓「ブラックスワン」──ウクライナ戦争が提起する5つの論点(下)

2022年12月21日(水)08時17分
デイヴィッド・A・ウェルチ(ウォータールー大学教授)

トルコもこれを邪魔しはしないだろう。戦略的には、これによって西側のロシアに対する立場は改善するはずだ。

しかしこれは良いことずくめという訳ではない。確かに、ロシアの西側に対する敵対的態度には当然対抗するべきで、プーチンが2014年と今回ウクライナに対して行った略奪行為を考えれば、NATOがその防衛努力を強化するのはもっとも至極だし、とりわけバルト諸国は、プーチンの世界観によりさらなる国境回復運動の目標になるかもしれないだけに、それが当てはまる(※6)。

しかし再活性化し拡大したNATOは、それ自身が抱えるかもしれない問題があることを認識しておくことは重要だ。

冷戦終結後の早い時期に、NATOを東方拡大しないという確乎とした明示的約束の類いがなかったことは確かにそうなのだが、ロシアが少なくとも暗黙にはそういった趣旨の約束があったと広く認識したのは理解できることだし、少なくともこれがこれまでも大きな不満の種となってきたことは明らかだ。

NATOが一層拡大するとなると、ロシアと将来折り合うことが難しくなるだろう。私としてはプーチンが権力の座にある限り、ロシアとの和解が可能だと想像する人はいないのではないかと思うが、彼も不死身ではないから誰かが彼の後継者となろう。その時西側としては後継体制とより正常で安定した関係を築こうとするはずだ。NATOを不倶戴天の敵だとロシアが思い込めば、それは難しくなるだろう。

ロシアのウクライナ侵攻は、世界経済はもちろん、多くの国に対して大きな影響を及ぼしてきたのは明らかだが、この紛争によってとりわけ大きな影響をうける第三国がある。それは中国だ。

プーチンと中国の習近平主席は、西側との敵対関係を共有していることを基礎にして、「限界のない」便宜的パートナーシップを築いたが、ちょうどドイツがオーストリア・ハンガリー帝国のバルカン半島での試練に恐れを抱きながら眺めたのと同じように、中国はロシアのウクライナでの苦境を眺めている。

ここで問題となるのは、中国の唯一の地政学的「同盟国」たるロシアの活力だけではなく、台湾を軍事的に支配しようとする将来の中国のありうべき試みにとって、この戦争がどのような教訓となるかに左右されることである。

論者によって見解は異なる。中国の引き出した教訓が、台湾への軍事的行動の可能性を低下させるものだとする分析もあれば(※7)、逆にその可能性は高まったと主張するものもある(※8)。

中国の政策決定の内情を知らないわれわれには、これについては知り得ない。しかし少なくとも、ロシアのウクライナ侵攻によって、これまでの他のどの出来事の効果にもまして、台湾有事の可能性にスポットライトがあたるようになったことは間違いない。

最後に、この戦争は世界秩序にとってはどんな意味があるのか? ここでわれわれは一番不確実性の大きい領域に足を踏み入れることになる。

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