アステイオン

日米関係

アメリカが今でも嫌いですか?

2022年05月30日(月)09時05分
阿川尚之(慶應義塾大学名誉教授、著述家)

中山さんの置き手紙──補遺「アメリカが今でも嫌いですか?」

本稿「アメリカが今でも嫌いですか?」には、中山俊宏さんのツイッターからの引用がある。

「力と力の対決の世界に引き戻されようとするかな[ママ]、やはり米国の存在が不可欠であることがますます明らかになっている」、米国への不安はあるが「なんと言われようが、力が剥き出しの世界に生きるよりかは、アメリカがindispensable nationである世界に生きていたいと思う」

アメリカ国内諸派間の対立が深刻で分裂の危機があるというが、この国のかたちや理念がそう簡単に衰退するとは思えない、日本にとって他に同盟の相手はいない。本稿の執筆を引き受けた時、そう書きたかったのだが、なかなかうまく表現できない。そんなときに担当編集者に教えられたのが、ウクライナ侵攻開始からわずか2日後の中山さんの上記のつぶやきだった。

中山さんはさらに、「改めて読んでみることにする」と『それでも私は親米を貫く』というずいぶん前に出した拙著を紹介していた。私が言いたかったのはこれだと思い、大いに参考にして本稿を書き直した。拙著にも言及させてもらった。

その中山さんが、5月1日急逝された。私よりはるかに若く、縦横に活躍していた人が、突然いなくなってしまった。衝撃を受けたが、彼の親しい同僚たちが悲しみ、憔悴する様子を見ているのもつらかった。

それからしばらくして、慶應義塾大学SFCの彼の同僚の一人が、中山さんの最近のツイッターにも私への言及があると、コピーを送ってくれた。普段から研究者仲間同士で気軽に意見を交換しているのだが、話題がマサチューセッツ植民地の指導者ウィンスロップの「丘の上の町」に及んだ。

そういえば私がかつて作詞したSFCの歌を、「丘に登ろう」という言葉で始めているというコメントに対して、中山さんが「あ、まさに丘の上の街だ。阿川先生は、ウィンスロップを意識してたのかな」と返答し、その流れで再び上記の私の本に触れ、「異端の書、稀有の書、しかし「それでも」という部分が決定的に重要」などと言っている(3)。

ツイッターの使い方さえ知らない私にとって、中山さんたちが私を種にしゃべっていることに、驚いたし、面白く思った。

6年前慶應をやめて京都・同志社に移ってから、中山さんに直接会う機会は稀にしかなかった。たまたまこの3月、あるウェブ講演会で私が話をした時、コメンテーターを引き受けてくれて、画面を通じて久しぶりに話をしたのが最後になった。

ここ3カ月ほどを振り返って、私が彼のツイッターを読んで本稿を書き直し、彼が私の本を読んでいたことを同じツイッターで述べ、我々2人はアメリカという主題を軸にしてお互いに刺激を受けあい、同じようなことを考えていたのだと思った。普段会わずとも、英語でいうKindred Spirit、「心の友」だった。私が読むとは思っていなかったようだが、ツイッターのコメントは私にとって、中山さんの大事な置き手紙になった。


[注]
(1)A・ハミルトン、J・ジェイ、J・マディソン『ザ・フェデラリスト』第五一篇、斎藤眞・中野達郎訳、岩波文庫、1999年。
(2)慶應義塾大学・中山俊宏教授が、この点をウクライナ侵攻の初期から指摘している。https://twitter.com/tnak0214/status/1497416025754996742
(3) https://twitter.com/tnak0214/status/1518387182868004864


阿川尚之(Naoyuki Agawa)
1951年生まれ。慶應義塾大学法学部中退、ジョージタウン大学スクール・オブ・フォーリン・サーヴィスならびにロースクール卒業。ソニー、米国法律事務所勤務等を経て、慶應義塾大学総合政策学部教授、同志社大学法学部特別客員教授などを務めた。2002年から2005年まで在米日本国大使館で公使を務める。主な著書に『アメリカン・ロイヤーの誕生』(中公新書)、『憲法で読むアメリカ史』(ちくま学芸文庫)、『憲法改正とは何か──アメリカ改憲史から考える』(新潮選書)など多数。



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