28年間合衆国最高裁判事を務めたブライヤー判事は、1月27日にホワイトハウスで引退を表明した折に、アメリカの将来について楽観的な見方を示した。
「アメリカはあらゆる人種、宗教、そして考え方を有する3億3000万人からなる複雑な国家です。そんなアメリカの国民が相互間の争いを法のもとで解決することに同意しているのは、ほとんど奇跡に近い。これまで判事席から人々のあらゆる主張を聞いてきて、そう思います。ですからこの国の将来について懐疑的な若者に私は言うのです。『立憲主義と法治主義を取り入れていない国で、何が起こるか見てごらんなさい』」
この原稿を書きはじめた後に、ロシアがウクライナに侵攻した。4月末現在、ウクライナはまだ果敢に抵抗を続け、プーチンは侵攻の目的を果たせないでいる。多数の市民が国境を越えて続々と逃げて行く中で、家族をポーランド側に送り届け、踵を返してロシアと戦うために国へ戻ってくる男たちの様子をニュースで見て、涙が出た。
この戦争で、わかったことが2つある。1つは世界中から激しい非難を浴びるプーチンの暴挙を、力で対抗する以外にやめさせる仕組みがないこと。2つ目は、弱体化し、分裂する危険さえあると言われるアメリカの存在が、ウクライナ侵攻が始まって以来、力と理念の両面で不可欠であること。我々はそれをしばらく忘れていた(2)。
今世界は荒々しく、危険に満ちている。ウクライナで起きたことは他の地域でも起こる。日本とその周辺も例外ではない。中国は状況を真剣に観察している。その日本は、利益と価値を共有するアメリカと同盟を結んでいる。ウクライナ人には羨ましいだろう。
もちろん時にアメリカも判断に迷う。そうだとすればなおさら、日本自身ができることなすべきことを真剣に考えてアメリカがさらに頼れる存在たらん決意を固め、この同盟をさらに強化する必要がある。
それなのに、我々はその衰退を心配しながらも依然としてもっぱらアメリカに頼るつもりでいる。それでいいのか。ロシアと戦うウクライナ人のように、いざと言う時には武器をも手に取る覚悟をしておくべきだろう。
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