デジタル化した時代のなかで、客は本とつながりを求めて集まり、店主や他の客と話を弾ませる。客の年齢やセクシュアリティは多様で、職業的にも研究、編集、教育、映画、テレビ、料理、水商売などを生業とする人から主婦、学生、出所したばかりの人まで実に幅広い。そして、性に関するアートや芸能、ジェンダーやセクシュアリティの理論・歴史の専門知、それぞれの個人的な経験や生きざまが、自由に、朗らかに語られる。その日集った人々のあいだでその都度その都度の小さな公共圏が生まれていく。ほぼ日の学校と同じように、ここにもライブな知的コミュニケーションが生まれる。
「有用性」や「生産性」などという画一的な物差しが振りかざされてしまうとき、また既存の学びの場が硬直化していってしまうとき、このような安心して柔軟に思考することのできる場があることは尊い。既存の価値基準を問い直し、オルタナティブな基準を提示する可能性を秘めているのは、「非正規の思考」だ。筆者はここでの交流のなかで、これまでどれほど多くのことを学び、研究上のヒントと自由を得てきたかわからない。そんなことを考えている筆者にそっと角ハイボールを差し出す小倉氏は、なんとなく「やってみなはれ」と言っているような気がする。
周東 美材(しゅうとう よしき)
大東文化大学社会学部 専任講師
2014年度 鳥井フェロー
vol.100
毎年春・秋発行絶賛発売中
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