アステイオン

日本

「東京知」と「関西知」

2018年03月30日(金)
尾原宏之(甲南大学法学部准教授)

近年、日本政治思想史という学問自体が東大において丸山眞男が創始したものであることが公然と語られるようになった。その丸山思想史学は、丸山自身幼少期を関西ですごしているものの、かなり「関東史観」的である。『丸山眞男講義録』は、鎌倉武士団から江戸の官僚化した武士に至る「武士のエートス」の展開、親鸞を中心とした鎌倉新仏教論にかなりの紙幅を割いている。そこでは、武士が持つ名誉感を背景とする独立自由の精神、御成敗式目にあらわれた「道理」の精神、そして鎌倉新仏教における世俗権力と信仰の断絶に焦点があてられた。丸山は、天皇制的なものを生み出し、それを下支えする「伝統」的な日本社会の思想を超克する契機をそれらに見出したのである。すると、井上氏の語る「上方史観」と丸山思想史学はあまり相性がよくないことになる。結局のところ、日本社会は天皇(家)の拘束から逃れられず、それを超克する契機はあったとしてもどのみち天皇制的なものに回収されるという結論に至りかねないからである。荘園制社会における商品経済の芽生えから記述する政治思想史も従来とは違う視野をもたらすかもしれない。

「関西知」が東京中心の「知」のあり方を揺るがす可能性について、考えさせられた一夜だった。

尾原 宏之(おはら ひろゆき)
甲南大学法学部准教授

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