あるいは、米西戦争以降の海外進出は当然に海軍力の伸長と他の列強諸国に対する優位の確立を伴っていたが、それは決して直線的ないしは目的合理的に進んだことではなかった。太平洋戦争における勝利の立役者であった航空母艦すら、戦後には軍縮の対象となりかかってしまう。本書の八木論文はこの過程を縦横に論じており、三上論文が対象とする現代中東における軍事プレゼンスにも密接な関係を持つ。
パクス・アメリカーナは軍事的側面だけでは決してない。むしろ、ジョセフ・ナイが論じるように、軍事力・経済力・ソフトパワーの組み合わせこそが、アメリカのパワーの特徴である。本書では、物流を担う商船に関する政策の展開と特徴を検討した待鳥論文、ソフトパワーに不可欠なコミュニケーションを支えるインフラとしての海底ケーブルを扱った土屋論文によって、非軍事的側面にも目を向けている。
とはいえ、冒頭の問いに本書が完璧に答えられたわけではないし、そもそも論者の数だけ答えがあるのかもしれない。むしろ、本書の各章が新たな思考や研究のきっかけになれば、それで役目は果たせたということではないだろうか。
このように書いてくると、いかにも厳格で禁欲的な雰囲気の中で執筆内容の分担や調整が図られたように思えてくる。しかし実際には、毎回の研究会は和気藹々と進められ、話は尽きることなく深夜にまで及ぶこともたびたびであった。メンバーは海洋国家としてのアメリカとパクス・アメリカーナを知的に愉しんだ、とさえいえるだろう。そのぶんだけ、編者である田所先生と阿川先生、担当編集者の神谷竜介さんには最終段階でたいへんなご負担を強いてしまったのだが... 本書を手にとって、何よりもメンバーが愉しんだことを感じていただければ、執筆者の一人として望外の幸せである。
3年にわたった研究会では、メンバー以外の多くの識者・専門家から貴重なお話を伺った。また、舞鶴と那覇で行った合宿に際しては、海上自衛隊・航空自衛隊・在日アメリカ軍からのご協力も頂いた。関係の皆様方に対して、心からの御礼を申し上げたい。
待鳥 聡史(まちどり さとし)
1971年生まれ。大阪大学法学部助教授などを経て、現在、京都大学公共政策大学院・大学院法学研究科教授。著書『〈代表〉と〈統治〉のアメリカ政治』(講談社)、『財政再建と民主主義』(有斐閣)、『首相政治の制度分析―─現代日本政治の権力基盤形成』(千倉書房)など。
vol.101
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