SUNTORY FOUNDATION
アメリカという国家にとって、あるいはパクス・アメリカーナにとって、海洋とは一体どのような存在なのか。
このたび上梓した『海洋国家としてのアメリカーパクス・アメリカーナへの道』(田所昌幸・阿川尚之編、千倉書房刊)は、サントリー文化財団からの3年間に及ぶ助成を頂いて行ってきた「パクス・アメリカーナと海洋研究会」の成果だが、研究会の根底にあった問いかけは、こうしたものであった。
常識的、あるいは通説的な答えは既に存在する。独立革命から米英戦争(1812-15年)を経て、イギリスをはじめとするヨーロッパ列強の干渉を排除したアメリカは、1823年にモンロー教書を出して、19世紀を通じて大陸国家として発展した。1850年頃には現在の領土がほぼ確定し、南北戦争を挟みつつ、19世紀末まで西部開拓が続けられた。フロンティア・ラインの消滅と米西戦争(1898年)を機に海外進出に乗り出し、アルフレッド・マハンの『海洋権力史論』という理論的基盤も得て、20世紀のアメリカは海洋国家としての色彩を帯びるようになった。パクス・アメリカーナとは海洋覇権であり、今日までそれは続いているー
もちろん、基本構図として誤りだというわけではない。だが、このように個別の重要事項を「点」として描き出し、それを直線的につなぎ合わせてみるという理解だけで、海洋国家としてのアメリカ、そしてパクス・アメリカーナの特質を考えるために十分だといえるだろうか。
私たちが研究会において議論し、本書の各章を通じて迫ろうとしたのは、基本構図からは抜け落ちてしまいがちな、しかしアメリカと海洋の結びつきを考えるときには不可欠な諸側面だといえるだろう。
たとえば、マハンの議論は19世紀末にいきなり登場して一世を風靡したのだろうか。無論そうではなく、それは一般に大陸国家だと考えられている19世紀を通じて進められてきた海軍士官教育や海軍学研究の産物であった。本書の田所論文、北川論文は、そのことを鮮やかに描き出している。
同時に、20世紀への転換点におけるアメリカが海洋に目を向けるようになっただけではなく、それがパクス・アメリカーナという形で国際関係上のパワーになったのは、政治的意思の帰結であった。セオドア・ローズヴェルトやウィンストン・チャーチルらに注目しつつ簑原論文と細谷論文が十全に扱うのはこの側面だが、阿川論文が提起するように、そもそも憲法制定期におけるアレグザンダー・ハミルトンの思想に海洋国家への道が準備されていたのだとも考えられよう。
vol.101
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