コラム

「17歳に引き上げ」のフィギュアから考える、一部競技に年齢制限が必要な理由

2022年06月14日(火)11時30分

オリンピック出場では、しばしば年齢制限が問題となります。

05年12月には翌年のトリノ五輪出場を巡り、グランプリファイナルで優勝した15歳の浅田真央選手が年齢制限で出場できないことが騒動となりました。当時の規定は「五輪前年の6月30日までに15歳」で、9月生まれの浅田選手は6月末には14歳だったので出場権利がありませんでした。

平昌五輪シーズンに全日本選手権で3位になった紀平梨花選手も、7月生まれの15歳だったため代表選考の対象にはなりませんでした。一方、スピードスケートの高木美帆選手は15歳でバンクーバー五輪に出場していますが、5月生まれなので出られました。

競技ごとに異なる年齢制限

もっとも、国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピック出場年齢に上限も下限も設けていません。

ちなみに日本の歴代オリンピック出場者で最年少は、1936年のガルミッシュ・パルテンキルヒェン五輪でフィギュア女子シングルに12歳で出場した稲田悦子選手です。対して最年長は、2012年のロンドン五輪に71歳で馬場馬術競技に出場した法華津寛選手です。

オリンピック憲章(2020年7月版)第5章Ⅱ「オリンピック競技大会への参加」の年齢制限に関する項目では、「オリンピック競技大会では競技者の年齢制限はない。ただし、IFが競技規則でそれを定め、IOC理事会により承認されている場合は、その限りではない」と規定されています。ここでIFとは国際競技連盟を意味しており、競技ごとにルールや大会などを統括する国際機関のことです。

スケート以外の競技団体では、例えば昨年の東京五輪の場合、体操競技は21年12月31日時点の年齢が男子18歳以上、女子16歳以上と定めました。国際水泳連盟は飛び込み競技について、大会の開催される年に14歳に達することを出場条件としました。

冬季種目では、最高時速が130~140キロメートルにも達するボブスレーが、危険度の高さから18歳以上となっています。年齢制限の高さからジュニア育成が難しいため、ボブスレーは他競技からの転向者が多くなっています。

年齢制限の理由は、ほとんどが選手の健康面への配慮です。変わり種は男子サッカーで、「プロ・アマ問わずに23歳以下、24歳以上の選手(オーバーエージ枠)は3人まで可能」という変則的な年齢規定になっています。サッカーの世界最高峰の大会はワールドカップであることにこだわりたいFIFA(国際サッカー連盟)と、IOCの妥協案として作られたルールだからです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story