コラム

イヌ好きならぜひとも知っておきたい、イヌにまつわるワンダフルな研究

2021年12月21日(火)11時15分

過去の研究には、イヌの飼い主の80%以上が「他のイヌに注意を向けると、イヌが嫉妬して吠えたり興奮してリードを引っ張ったりする」と回答したものがあります。今回の調査は、イヌの嫉妬行動をより詳細に分析し、イヌはヒトに対して親愛の情だけでなく、より複雑な感情も持つことが示唆されました。

3.品種改良されたイヌほど、飼い主のストレスに影響を受ける

スウェーデンのリンショーピング大学の研究チームは、牧羊犬58匹とその飼い主を対象に、コルチゾール濃度を1年間にわたって追跡しました。

コルチゾールは副腎皮質から分泌されるホルモンの一つで、ストレスを受けたときに分泌が増えることから「ストレスホルモン」とも呼ばれています。過剰なストレスを受け続けると、コルチゾールの分泌が慢性的に高くなり、うつ病、不眠症などの精神疾患、生活習慣病などのストレス関連疾患の一因となることが分かってきています。

研究チームの調査の結果、飼い主のコルチゾール濃度と牧羊犬のコルチゾール濃度の上下は同期していると分かりました。さらに飼い犬のコルチゾール濃度はイヌ自身の性格ではなく、「飼い主の性格」により大きな影響を受けることが分かりました。

牧羊犬は、飼い主に協力して羊を集める「人間との関係性が強い、品種改良の進んだ犬種」です。そこで研究チームは、次にオオカミに近い古代種の24匹、飼い主との関係性は弱いが牧羊犬のような品種改良種である狩猟犬18匹を調査対象に選び、その飼い主とともにコルチゾール濃度の調査をして、牧羊犬の結果と比較しました。

その結果、狩猟犬では「飼い主の性格、飼い主との関係性が、イヌのストレスに影響を与える」という牧羊犬と同様の結果が得られましたが、飼い主とイヌのストレスホルモンの同期は見られませんでした。古代種では飼い主の性格には影響を受けず、関係性にはやや影響を受けるものの、やはりストレスホルモンの同期は見られませんでした。

一般家庭で飼っているイヌは、牧羊犬のように人間との関係性が強く、品種改良の進んだ犬種が大半です。つまり、飼い主がストレスを強く感じていると、無関係である愛犬も同期してストレスを強く感じてしまう可能性があります。愛犬の心と身体の健康を守るためにも、自身のストレスを溜めないようにしたいですね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラの「ギガキャスト」計画後退、事業環境の逆風反

ワールド

ロシア、ウクライナで化学兵器使用 禁止条約に違反=

ビジネス

ドル一時153円まで4円超下落、再び介入観測 日本

ワールド

米、新たな対ロシア制裁発表 中国企業を狙い撃ち
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story