コラム

MISIA、ヒゲダンの歌声「1/fゆらぎ」に見る、音楽と科学の深い関係

2021年11月23日(火)11時25分
MISIA

虹色の衣装で登場し、国歌斉唱するMISIA(2021年7月23日、東京五輪開会式) USA TODAY USPW via REUTERS

<琴線に触れる音楽にはどんな秘密があるのか? なぜ緊急地震速報にビクリとするのか? 人の生活と音の関係に科学で迫る>

年末の風物詩である「NHK紅白歌合戦」の出場歌手が、11月19日に発表されました。

紅組には東京五輪で国歌斉唱したMISIA、中高生に大人気のガールズグループNiziUら22組、白組には動画サイトで人気が爆発した「歌い手」のまふまふ、演歌だけでなくポップス歌唱やライフスタイルも話題の氷川きよしら21組がラインナップされています。松平健が選ばれた特別枠での出場歌手は、今後も増える可能性があります。

ポピュラー音楽は「時代を映す鏡」と言われてきました。近年、その言葉を裏付けする研究がアメリカと日本で行われています。

米ローレンス工科大学のカスリーン・ネイピア氏とリオール・シャミール氏は、1951年から2016年の間に米シングル人気チャート「ビルボード・ホット100」にランキングされた6000曲以上の歌詞の「感情」をAI分析しました。

それぞれの曲の歌詞に含まれる怒り・恐れ・嫌悪・喜び・悲しみを示す言葉を0〜1のスコアで数値化すると、「怒り・恐れ・嫌悪・悲しみ」のスコアは65年間で年々増えてきているのに、「喜び」は徐々に減ってきているという結果になりました。

さらに、1960年代後半から70年代初頭にかけて市民運動が活発化していた時期は怒りや嫌悪のスコアが高く、1989年の冷戦終結宣言の前後は「恐れ」スコアが急減したという現象も見られました。

日本では、2017年に株式会社シンクパワーと産業技術総合研究所が歌詞のトピックを可視化するツール「Lyric Jumper(リリック・ジャンパー)」を開発して、誰でも使えるように無料公開しました。

このツールを使うと、あるアーティストの傾向が「自分探し」「大人の恋愛(男性編)」「言葉遊び」など20個のトピックに添って円グラフで表示されます。1曲ずつでも見られますし、各トピックの代表的なアーティスト名を知ることもできます。

たとえば、星野源ならば「センチメンタル」「青春」「自分探し」に関連する歌詞が多く、同じ傾向を持つアーティストは森山直太朗やレミオロメンだ、という具合です。

リラクゼーション効果をもたらす1/fゆらぎ

音楽と科学を結びつけるキーワードでは、「1/fゆらぎ」が最もよく聞く言葉でしょう。

そもそも「ゆらぎ」とは、部分的な不規則性のことです。自然界で規則的だと思われるもの、たとえば天体の軌道運動などにもゆらぎは存在しています。太陽の周りを公転する地球は、毎年、全く同じ軌道を周回するわけではありません。

ある事象でゆらぎが大きすぎると、人は次に何が起こるかが予想できなくなり、不安に感じます。いっぽう、ゆらぎが小さすぎると、人は単調で変化がないと感じるようになり、つまらないと感じてしまいます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story