イタリア事情斜め読み
イタリアの不法入国移民90%は難民認定却下
イタリアのピアンテドージ内務大臣によると、イタリアとヨーロッパ圏内で保護を求めている移民の90%は庇護を受ける権利がないという。
移民の10%だけが庇護を受ける権利を持っていると言うが、EU統計局ユーロスタットの数字は、実際はそうではないことを示している。
| EUでの難民認定数に関するデータ
EU統計局ユーロスタットのデータによると、2023年にEU加盟27カ国すべてで初めて提出された亡命申請のうち52.8%が肯定的な回答を得た。過去、申請が認定されて保護された人の割合は、2021年は38.2%、2022年は48.8%に相当する。年々認定数は増えている。
言い換えれば、2023年にEUで調査された亡命申請の半数以上が、承認されたことになる。
亡命が認められるには3つの保護形式があるが、そのいずれかを認めたという回答だった。
難民条約での定義は、大まかに国際的保護の第一形態、国際的保護の第二形態、それ以外の特別保護人道的理由の第三形態がある。
難民条約に書かれた難民の定義や迫害の解釈などは、国々によって様々であるし、第三形態の人道的理由の保護を認めていない国(イタリア)などもある。
第一形態
「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々」に属している亡命申請者の22.4%が難民認定を受けた。
第二形態(補助的保護)
「難民として認定されるための要件と資格を満たしていない人々、出身国に帰国する際にリスクを負う移民」に属している亡命希望者に与えられる国際的な保護は19.2%認められた。
第三形態(その他、特別保護人道的理由)
申請者の11.2%が人道的理由で保護を認められたが、欧州のさまざまな国や州では、異なる規則が設けられている。
『人道的ステータスの種類に該当する人』とは
・難民 -人種、宗教、国籍、特定の社会集団への所属、または政治的意見を理由に迫害を受けるという十分な根拠のある恐怖のため、出身国に戻ることができない、または戻りたくない人
・亡命希望者- 出身国に戻ることができない、または戻りたくないが、庇護の要請がまだ処理されていない人
・国内避難民 -安全を求めて国境を越えなかった人。難民とは異なり、国内避難民は自国に留まる
*免責事項: 人道的地位を確認するために法的文書を提供する必要があることに留意。
この第三形態の保護を認めていない国もある。その国の一つがイタリアである。
ユーロスタットはまた、最初の保護申請が却下された亡命希望者による申請の結果に関するデータも提供している。
2023年には、欧州連合レベルでの難民申請を却下されても、上訴をした場合、約27%が肯定的な結果を得ている。
ピアンテドージ内務大臣が引用した「90%」という割合は、EU全体の亡命申請への回答に基づいて計算した場合は誤りではあるが、イタリアについては正しいという反論もできるだろう。
2023年、イタリアで初めて提出された亡命申請のうち46.3%が肯定的な回答を受け取り、つまり2人に1人弱となった。
申請者の10.4%が難民認定を受け、13.8%が補助的な保護を受け、22.2%が人道的理由で保護を認められた。
| イタリアの結んだアルバニアとの協定
ラ・スタンパのインタビューによると、マッテオ・ピアンテドージ内務大臣は、イタリアに向った移民の一部を亡命申請を審査するための施設をアルバニアに建設するというイタリア政府とアルバニア政府の間で署名された協定を擁護した。
ピアンテドージ内務大臣は、このプロジェクトにかかるコストについて、特にイタリアとヨーロッパ全体にとっての利益を考えた場合と、難民申請をした後にその内約90%がその保護に関する国際基準に達していないことが判明する人々の利益を考えた場合、この2つの利益を天秤にかけ、比較される必要があるし無駄な費用は削減していかなければならないと言う。
不法移民の収容と本国送還のための施設建設の特別計画のために、2023年は国防省の管轄官庁を通じて2,000万ユーロ(約31億5,800万円)の資金が割り当てられる。
すでに昨年起こったように、内務大臣はイタリアまたは欧州連合加盟国に到着後に何らかの保護を受けた人の数を過小評価していると、不明確ながらも語っている。
内務大臣が引用した「90%は難民にあらず」という主張とその割合は、一部の国のみから来た移民から受け取った否定的な回答の割合を指している可能性がある。
実際、イタリア政府がアルバニア政府と署名した協定には、アルバニアに建設された建造物がイタリアに向かう移民の一部によって提出された亡命申請が審査されることになっており、イタリア国境地域と同等のものとして扱われると規定されている。
イタリアが「安全な国」とみなしている国から不法に入国した者に対する国際保護の申請について、迅速な手続きを実施することができるものである。
『危険な国と地域ではないと認定した"安全な国" の最新リスト』
アルバニア、アルジェリア、バングラデシュ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カメルーン、カーボベルデ、コロンビア、コートジボワール、エジプト、ガンビア、ジョージア、ガーナ、コソボ、北マケドニア、モロッコ、モンテネグロ、ナイジェリア、ペルー、セネガル、セルビア、スリランカ、チュニジア
が挙げられる。
2023年にイタリアに上陸した移民の国籍の中で2番目に多い国であるチュニジアのケースから始めて、いくつかの例を見てみる。
昨年、EU圏内にチュニジア国民が初めて提出した亡命申請のうち17%の2045件のが認定許可を得た。
この割合は、セネガルからの申請者では 21.4%、ナイジェリアからの申請者では22.1%、カメルーンからの申請者では 27.8%、コートジボワールからの申請者29.4%に上昇している。
その代わり、エジプトからの申請者は12.1%とバングラデシュからは12.9%しか亡命希望者に認定されていないと、より低い割合が記録されている。
ピアンテドージ内務大臣が示唆したように、2023年にこれらの国々の人々が提出した庇護申請のうち、EU加盟国27カ国全体で肯定的な回答を受けた人の割合は52.8%、それよりイタリアはだいぶ低く、庇護申請認定率は10%に留まる。
2024年3月31日に最新の数値を反映した日本の難民認定状況については、認定率3.8%で303人、イタリアは認定率10.4%で4,905人だ。
イタリア内務省市民自由移民局の統計ダッシュボードによると、2023年には71,007人が正規ではないルートでイタリアに不法に上陸した。2024年1月より7月9日までには、27,024人の移民が上陸している。27,024人の国籍別内訳は、バングラディシュ5.728人、シリア3.930人、チュニジア3.311人、ギニア2.027人、エジプト1.756人、パキスタン1.051人、スーダン908人、ガンビア897人、マリ877人、コートジボアール701人、その他5.838人。
| イタリアにおける特例ケースとは
前述で、筆者は第三形態の保護を認めていない国もある。その国の一つがイタリアであると述べたが、イタリア当局は、国際保護を申請した人、または「亡命の権利の為の国家委員会」の決定に対して不服として控訴し、人道的保護を受ける資格があると判断された人々に対して、2年間の特別滞在許可証を発行し続けた。
2018年10月5日以前に国際保護を申請したか、委員会からの否定的な回答に対して異議を申し立てており、人道的保護を受ける資格がある場合にのみ、 2年間の「特例ケース(Casi Speciali)」を受け取ることができる。
イタリアはかつて人道的保護を与えていたが、現在は難民認定や補助的保護を受ける資格はないが、それでも何らかの保護を必要とする亡命申請者に特別保護を与えている。
「特例ケース(Casi Speciali)」の付与の決定は、
1、イタリアにおける社会的・経済的統合のレベル
2、2018年10月5日以前に亡命を申請した
この2つの要素の組み合わせに基づいて行う必要がある。
母国に帰国した場合、深刻な人道的理由と基本的人権の侵害の可能性があると判断した場合は、通常の滞在許可証を受け取る資格はなくなるが、「特別保護のための滞在許可証(permesso per Protezione Speciale)」 と呼ばれる許可を2年間付与される場合がある。
| 特別な場合と特別な保護の違いは何か
実際には、「特例ケース(Casi Speciali)」許可証は、いわゆる「サルヴィーニ法令」と呼ばれる2018年10月5日に発効される以前に国際保護を申請し、人道的保護を受ける資格のある人のみを対象としている。
サルヴィーニ法令は人道的滞在許可を廃止し、他の種類の滞在許可を導入した。
これらの新しい許可の1つが「特別保護のための滞在許可証(permesso per Protezione Speciale)」である。
これは「特例ケース許可証(Casi Speciali)」と同じ理由、つまり母国に送還された場合に出身国で迫害や拷問を受ける恐れ、または私生活や家族生活の権利が侵害される恐れがあるという理由で付与される。
要約すると、
⚪︎旧「特例ケース許可証(Casi Speciali)」、2018年10月5日以前のもので更新不可
⚪︎新「特別保護のための滞在許可証(permesso per Protezione Speciale)」
2018年10月5日以降または特例ケース許可証の有効期限が切れた後に保護を申請した人に付与される。
「特例ケース許可証(Casi Speciali)」があれば、以下の権利が与えられる。
- イタリアで働けるが、他のヨーロッパ諸国では働けない。
- 地元の自治体の登記所に登録すると、住民票を取得する権利が得られる。
- イタリアの医療制度(SSN)にアクセスできる。
- イタリアの公教育システムにアクセスできる。
- 渡航書類を取得できる。2年間有効期限内は、母国でパスポートを取得できない場合でも、渡航書類(Titolo di Viaggio)の入手可能。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie