南米街角クラブ
【実録レポート】ブラジルの盆踊り大会に行ってみたら
先日、日本の子ども向けのオンライン講座に登壇させていただいた際、
「ブラジルに住んでいる日系人の人口は世界で何番目でしょう?」
と質問してみた。
子どもたちは「2番目かな?1番目はアメリカだよね?」と答えた。
確かに、最も多くの日本人が住んでいる国はアメリカ合衆国で正解だが、"日系人"が最も多い国はブラジルなのだ。
1908年に最初の移民船「笠戸丸」がブラジルへ到着してから、今では推定200万人の日系人がブラジルで暮らしている。
多くは移住地となったサンパウロ州やパラナ州に集中しており、いくつかの街では今でも大きな日本祭りが開催されている。
私が暮らしているブラジル内陸部のゴイアス州ゴイアニア(人口155万人、日本だと川崎市と同じぐらい)では、街中で日系人に会うことは珍しい。
その代わり、中心街から少し離れたエリアに日系人のコミュニティが存在しているそうで、毎年大きな盆踊り大会が開催されている。
本年は8月26、27日の2日間に渡り開催されたので、行ってきた。
今回で20回目となるゴイアス州の盆踊り大会のテーマは『Resiliência』(回復)。
つまり新型コロナウイルスという困難から立ち上がるという思いが込められている。
ブラジルの新型コロナウイルス感染者数は、1月のピークを越えてからは比較的落ち着いており、大型イベントも復活。これまでの自粛から解き放たれたように、多くの人が積極的に外出しているように感じる。ただし、マスク着用を続ける人の姿も見られる。
盆踊りの会場は、市内から車で20分ほど離れたClube Kaikan(会館)と呼ばれるゴイアス日伯協会の本部がある敷地内。
ゴイアス日伯協会は非営利団体で、日本語教室や日本の伝統文化を紹介するイベントが開かれ、グラウンドはスポーツ会場として市民に開放されている。
筆者らはUber(タクシー配車アプリ)を使用して向かったのだが、会場まであと1kmという所から既に駐車場に入るための渋滞が始まっていた。
ようやく会場に辿り着くと、今度は入場ゲートを通過するために長蛇の列。
しかし、チケットは事前購入してあったので思ったよりもスムーズに入場できた。
入場料は50レアル(現在のレートで約1400円)、更に1kgの食料品を寄付するようにチケットに表記されている。
寄付された商品は、支援が必要な人々に行き渡るよう複数の地元団体に送られるのだ。こういった1kg寄付活動は、多くのイベント会場で実施されている。
この入場料50レアルはブラジルの賃金から考えると決して安価ではないが、イベントの規模を考えると適切な値段だと感じた。餃子の引換券が含まれているのも嬉しい。
私の経験から言うと、野外イベントは有料の方が比較的安心して楽しむことができる。というのも、無料のイベントは人混みを狙った強盗がどこからともなくやってくる。夜遅くなればなるほど雰囲気が悪いので注意が必要だ。
グラウンドに出ると、そのやぐらの大きさにびっくりした。
日本に住んでいた時も、こんなに立派なやぐらのある盆踊りには参加したことがないかもしれない。
ステージでは日系人歌手の伊藤カーレン氏が「浪花節だよ人生は」を歌っていた。
その周りを老若男女、大勢の人が踊っているのだが、殆どの人が踊りを知らないようで、ベテランさんの後ろについて真似をするように踊っている。
ちなみにカーレンさんは日本のアマチュア歌謡祭にブラジル代表として参加し、最優秀歌唱賞に輝いた経験をもつ実力派。ブラジル全土の日本祭りにゲスト出演している。
歌の後、子供向け番組の司会で有名になった日系人タレントのユージ・タマシロ氏も特別ゲストとして登場。
続いて、沖縄の伝統を受け継ぐ「琉球國祭り太鼓」のブラジル支部を代表して、南部パラナ州ロンドリーナのメンバーが力強いパフォーマンスを披露してくれた。
この団体は1982年に沖縄で結成され、1998年にブラジルでも活動開始。現在はアメリカ、アルゼンチン、ペルー、ボリビア、メキシコにも支部があるそうだが、ブラジルの参加者は600人と最も多いそうだ。
22時、イベントも大盛り上がりの頃、地元ゴイアニアの青少年で構成される太鼓団体「Kyoushin Daiko」が登場しクライマックスを迎えた。
彼らの研ぎ澄まされた精神から奏でられる太鼓の「ドン!ドドン!!」という響きや、ノスタルジックな竹製の横笛の音色に、観客たちは「これがブラジルで観られるなんて、嬉しいね」と夢中になっていた。
盆踊りを盛り上げるのはパフォーマンスだけではない。
入場時にもらった餃子の引換券を手に屋台コーナーへ向かうと、そこも大賑わいだった。
焼きそば、天ぷら、そしてブラジル人が大好きなサーモンの寿司などが販売されている。引き換えた餃子は日本らしく「焼き餃子」で、揚げ餃子しか食べたことがなかったブラジル人の夫は大変気に入っていた(なぜか、日本食レストランで提供される餃子は揚げ餃子が多い)。
屋台コーナーの他にも、ホンダなど日本企業や日系企業のブースもあった。
ゴイアス日本語モデル校のブースでは同校の先生方が書道で好きな漢字や名前を書いてくれる。
ブラジル人と結婚し、現在はゴイアニアでセラピスト、日本語教師としてご活躍する吉田恵さん(photo by Aika Shimada)
プレゼント用のしおりやカードは全て手作りだそう。
アニメや漫画のグッズ販売コーナーも用意されている。コスプレをしてくる来場者もよく見かけた。
ワンピース、ナルト、鬼滅の刃グッズも用意されている(photo by Aika Shimada)
イベントには8,000人近い来場者が訪れ、ゴイアス日伯協会の会長ルイス・ヨシユキ・ハラダ氏は来場者を歓迎するとともに「より素晴らしい盆踊りを実現するために集まってくれた400人のボランティアの皆さんに心から感謝したい」と話した。
また、高野修一総括公使は盆踊りの由来をポルトガル語でスピーチし、サンパウロから招聘されたブラジル日本文化福祉協会(文協)の文化担当理事ジョルジ・ヤマシタ氏は「このエネルギーをサンパウロに持ち帰って、ブラジル全国へ伝えたい。移民114年に渡る日本とブラジルの友情をこれからも大切にしていきましょう!」と呼びかけた。
ブラジルの盆踊りは思っていた以上に忠実に再現されており、まるで日本にいるような感覚になったほどだ。
普段から日本に興味がある非日系ブラジル人(例えば、空手や太鼓を習っていたり日本語を習っていたり)が集まるのかと思ったが、地元の人に聞いてみた所、今では街の重要イベントの一つとして数えられているそうだ。地元の人との触れ合いや結束を深めるという、盆踊りの良い所がブラジルでも実施されている。
更にブラジルでは異文化体験を楽しめる機会となり、この盆踊りをきっかけに日本に興味を持つ人もいるだろう。
筆者はブラジル音楽の研究をするためにブラジルにやって来たのだが、実はこういった日系コミュニティのイベントを通して自分のアイデンティティや、日本文化の美しさを考える機会が増えた。
そして改めて感じたのは、どれだけ距離が離れようが、時間が経っていようが、自分に沁みついているものはすぐに思い出せるということだ。
以前、ブラジル北部マラニャオンの文化であるタンボール・クリオーロを生で聴いたとき、体を揺らす人々の間ですっかり棒立ちしてしまった経験があるのだが、今回は会場で流れた「河内おとこ節」を聴いて、思わず踊りたくなってしまった。
「血が騒ぐ」というのはこういうことなのか。
何年ブラジルについて研究していたも、やっぱり自分は日本人なんだなぁと感じた1日だった。
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当日の様子は在ブラジル日本国大使館のYoutubeで生放送されている
https://www.youtube.com/watch?v=t35LdKJkad4&t=3355s
55:55あたりで「河内おとこ節」を歌う伊藤カーレン氏と会場の様子が見れる
著者プロフィール
- 島田愛加
音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。
Webサイト:https://lit.link/aikashimada
Twitter: @aika_shimada