南仏の国際機関から考える
外出制限の国から見た「不思議の国GoToニッポン」
子供の頃に好きでよく読んだ本に「不思議の国ニッポン」というシリーズがありました。
なぜこれを読むことになったのか記憶にありませんが、おそらく小学校高学年の頃であったかと思います。父親の本棚にあったような、図書館で借りたような、定かではありませんが、シリーズで何冊も出ており、なにやら新しいものの見方を学んでいるような気分で読んでいたことを覚えています。
今思うと、おそらく自分がはじめて「フランス」という国を知った、または認知したのはこの本がきっかけであったかと思いますが、その当時は無論自分が将来フランスに移住することになるとも思わなかったし、別に本は面白かったのだが、フランス自体を好きになったわけでもないことは注記しておきます。
(なお、後年、著者のポール・ボネという人は、実はペンネームで日本人の藤島泰輔の別名義であり、また彼がジャニーズ事務所で有名なメリー喜多川氏の配偶者であることを知った時には軽く驚いたが、それは本稿とは全く関係のない余談です)
さて、なぜ私がこれを思い出したのかというと、ここ数週間の間に数回「コロナの日本の状況はどうなんだ?」と職場の同僚に聞かれたので、ちょこちょことニュース等を調べて軽く「不思議なこと」に気がついたからです。私の職場は国際機関なので、同僚といってもフランス人に限らず、多様な背景の出身者がおり、またそれぞれの視野もそれなりに「国際多様性」を持った上での質問なので、けしてなにか特定の意見に偏らずに話をすることが出来るのですが、本件に関しては「日本人職員」として自国のとある状況について簡潔にかつ論理的に説明する事を常としている私には非常に難しくなっていることがわかりました。
一例をあげると、11月以後の感染者の拡大に対して、政府の公式の考え方が2つのどう考えても成立させることが極めて芸術的・職人的な理解と行動を求めるものがあるように思えることです。
1)3密、外出、人に会うことは控えましょう
2)補助金を出すので、旅行・外食に積極的に行きましょう(いわゆるGoTo施策)
無論、2)には経済活動を出来る限り保ち、ネガティヴインパクトを減らしたいという考えが背景にあることは十分わかるのですが、それと1)を両立させることを具体性を示さずに言うのは、「自分の頭で考えて両立させてください」という極めて「自国民の思考レベルが高い」という前提に立脚しているように感じます。政府も自国の国民の判断力に余程の信頼があるのだと思いました。これは誇らしいことなのかもしれません。
私自身は、自分がGoToを使うことはできない(というかフランスにてロックダウン中)ので具体的な使い方もわかっていないのですが、「これは出来る限り人の居ない旅行先に、できれば交通機関は避けて自家用車で移動し、泊まるのは大規模旅館バイキングとかじゃなくて、部屋数の少ない温泉などに泊まり、食事は一蘭とか?並ばないできれば一日1組限定みたいな店に食べに行けということか?」などなど頭の体操をしてしまいましたが、想像の域を出ません。
ご存知のようにフランスでは10月の終わりから12月1日まで、春のようなロックダウンが再度行われております(詳細は省きますが、春に比べると所々の条件は緩和されており、また手続きなども簡易化されています)。人々は、最低限度の外出(仕事、生活用品の買い物、適度な運動、通院など)のみに制限された環境で、無論旅行はできないですし、自分の住んでいる地域より遠くに移動することもできません。外食も同様に全てクローズしています。ここでは、強力なトップダウンのアプローチ無しに、「自粛要請」や「個々人の頭で考えて判断する」などということをやっていてはすぐに医療崩壊に繋がってしまうという危機感があると感じます。(ようは、国民の判断に任せていては好き勝手な事が起きてしまうから、全部政府が上から強制力で決めないといけないという側面)
そうした所に住んでいる人に対して上述の2つの方針が与えられている中でやっていこうとする日本を彼らが理解できるように説明するのは大変難しく、まさに「不思議の国ニッポン」として説明する以外ないのかと悩んでいる今日このごろです。