アルゼンチンと、タンゴな人々
アルゼンチン発、大人の夜遊び?!世界中に点在する「ミロンガ」とは?
パンデミックが明け、国と国の行き来が出来るようになってきた今、私の周りのアルゼンチンのミュージシャンやタンゴダンサーたちは以前のように世界中にツアーに出掛け始めています。
アルゼンチンタンゴ音楽に欠かせない楽器である「バンドネオン」の演奏者 としてアルゼンチンで暮らしている私も、つい先日アメリカ4都市を巡り、各地のタンゴアーティストたちと様々な企画でコラボレーションする演奏旅行に行ってきました。
アルゼンチンタンゴコミュニティは実は世界中に存在し、踊る人、演奏する人、聴く人が集まって都市単位で年中どこかしらでフェスティバルが行われています。タンゴダンスというと、セレブリティなイメージまたは古めかしいイメージもあるかもしれません。しかし、このコミュニティの中にはプロ・アマ問わずどこの誰でも参加できるタンゴ専門のダンスホールがあり、そこは「ミロンガ」と呼ばれ、気軽でオシャレな大人の社交場として親しまれています。
このミロンガ、言わずもがなタンゴの本場・アルゼンチンの首都ブエノスアイレスが発祥です。夜遊び大好きブエノスアイレスっ子、この街の夜はとても長いのですが、ミロンガに人が集まり始めるのは平均してだいたい夜の21時~22時頃から。ピークは24時頃でしょうか。タンゴバンドの生演奏は丁度日が回ったくらいの時間から、遅いところでは深夜2時頃から始まったりもします。週末には朝方5時頃まで踊り、そのままクロワッサンとカフェオレの朝食をとって、解散!などという遊び方もあります。
こう書くと若者向けの夜遊びのように思われますが、ミロンガで見かける年齢層は幅広く、年配の方々の常連席が存在する場所もあります。
ブエノスアイレスの伝説的ミロンガClub SUNDERLANDについて、ポルトガル語で素敵な写真と共にまとめられたサイトです。日本の方も、懐かしの場所という方多いのでは...!
-- 西原なつき@バンドネオン奏者 (@bandoneona) June 29, 2022
"La Milonga del Mundo", insolitamente acontece numa quadra de basquete - ilumine o projeto https://t.co/SdUonEmRAl
市内中心部だけでもコロナ禍前には約200軒以上のミロンガが存在していた、と言われており、世界中からミロンガに行く(タンゴを踊る)ためにブエノスアイレスに来る人々も大勢います。(ちなみに、みんなどういう仕事してるの?という質問は定番中の定番なのですが、聞いてもあまり意味がありません。明日には明日の風が吹く、だから今日は楽しもうというのがアルゼンチンスタイルです。)
ミロンガでかかるタンゴの音楽は一曲およそ3分。ペアになって組む相手は恋人や友人だけではなく、その場で出会った初対面の人とも踊ります。目くばせをしあってペアになり、曲に合わせて抱き合う形で即興でステップを紡いでいきます。3~4曲が一セット、人によって踊り方も様々なので、相手の出方を見ながら、相性を探りあっていきます。それが終わればさっぱりと、じゃあまたね、と別のパートナーを見つけます。その為「3分間の恋愛」などと形容されることも。
(photo Matthew McLaughlin - Philadelphia tango festival)
基本の作法やステップなどを覚えて踊れるようになれば、上達していく過程の中で、タンゴというひとつの共通点だけで、言語の壁も超えて世界中の人とコミュニケーションを取ることができます。初対面で抱き合って踊るというのは日本人感覚からすると抵抗のあることと思いますが、もちろんその中にルールが存在し、セクシャルハラスメントと取られることはNGです。
そしてタンゴ用のドレスやハイヒールもエレガントだったりコケティッシュだったりとっても可愛くて、非日常的に思いっきりオシャレできる場所でもある、ということもタンゴにハマっていく人々が絶えない理由のひとつかなと思います。
ボストンで開催されている"Loca festival"というタンゴマラソンに呼んでもらい演奏に来ています。3日間、会場を貸し切り、朝から晩まで?!皆んな踊っています。演奏は深夜、11時半/1時半からの2セット。
-- 西原なつき@バンドネオン奏者 (@bandoneona) May 29, 2022
編成はオルケスタティピカです
この日のドレスコードは赤・白・黒。エレガントです。 pic.twitter.com/3c2KvNRVTg
ちなみにCOVID対策も気になるところですが、その土地ごとの規則に従って必要な手続きを行った上で実施されており、違法なイベントではありません。マスクの着用は個人の自由、ここでは参加者はワクチン接種証明書と、入場時のCOVIDテストが義務付けられていました。
著者プロフィール
- 西原なつき
バンドネオン奏者。"悪魔の楽器"と呼ばれるその独特の音色に、雷に打たれたような衝撃を受け22歳で楽器を始める。2年後の2014年よりブエノスアイレス在住。同市立タンゴ学校オーケストラを卒業後、タンゴショーや様々なプロジェクトでの演奏、また作編曲家としても活動する。現地でも珍しいバンドネオン弾き語りにも挑戦するなど、アルゼンチンタンゴの真髄に近づくべく、修行中。
Webサイト:Mi bandoneon y yo
Instagram :@natsuki_nishihara
Twitter:@bandoneona