シリコンバレーと起業家
シリコンバレーでは、前職の給料、年齢、出身、子供の有無を聞いてはいけない
──これまで起業家としてフェーズが変わったという段階はいくつかあったと思いますが、どのようなタイミングだったか教えてください(聞き手:小林 大河)
内藤:米国で現地の社員を採用する前と後で、意識がかなり変わったと感じました。ずっと共同創業者の田中と2人で試行錯誤をしながら、2年間くらい事業を変えながらやってきました。Anyplaceをローンチした後も、ジェイソン・カラカニスなどから250万ドル(約2.5億円)集めるまで、ずっと2人でやっていて、会社という感覚よりも、個人でやっているような感覚の方が強かったです。
シードの資金調達で、250万ドル集めてから、米国で現地の人を採用しました。その時から、社員が増えてフェーズが一つ変わったなと思います。私と田中がやっていたことを、社員に任せていかないと前に進まないじゃないですか。CEOとして採用、資金調達などやらなくてはいけない。それをやりながら、営業やマーケティングなどをやると中途半端になってしまう。自分は自分にしかできないCEOとしての仕事に集中して、他のことは社員に任せることで、会社っぽくなってきました。
──具体的に今は何をされていらっしゃるのでしょうか。
内藤:段階を追って話すと、最初はひたすら事業のコンセプトを固める仮説検証+トラクションを作ることに時間を使っていました。そのコンセプトが固まり、事業を組織として拡大していく段階になると、自分にしかできないことに時間を使うようになります。最初は営業やマーケティングも自分でやっていましたが、それはその分野を専門とする優秀な人を雇ってやって貰った方が事業が進みます。一方で、私がやるべきことは採用と組織作り、どういうカルチャーにしたいかなどを考えます。また、将来の戦略とプロダクトのロードマップなどを考えることにも時間を使います。事業はトップが描いた以上のものにはならないので、自分がトップとして、正しい意思決定をすることに時間や意識を集中するようにしています。
──仕事内容が変わったと言う話がありましたが、内藤さん自身の性格、意識が変わった部分はありますでしょうか。
内藤:米国で社員を採用して、上に立つ立場になって、自分の言動や振る舞いを気をつけるようになりました。それが会社の文化になっていきます。あとは、米国は日本と比べると社員とのコミュニケーションで気をつけるべき点が多いです。個人的に、米国で会社を経営するようになって、セクハラや人種差別について、以前より意識が高くなりました。例えば、ミーティングで女性社員と1対1で密室に入ってはいけない。必ず誰かもう一人入れるか、外から見えるような場所で行う必要があるんです。言われてみれば当たり前に聞こえますが、こっちにその気がなくとも、知らないでやってしまうことがあってはいけないので、そういう点を気をつけるようになりました。
また、社員とお酒を飲んでいるとして、日本の感覚でよかれとおもって、グラスにお酒をつぐとかも見方によっては、アルコールの摂取を強要しているパワハラになるかもしれないのでやるべきではありません。一発アウトではないが、向こうの捉え方によっては訴えられるケースはたくさんあります。カリフォルニア州では、前職の給料を聞いてはいけませんし、年齢、出身、子供の有無なども面接で聞いてはいけないので、気をつける必要があります。差別的な理由で面接を落とされたと会社が訴えられる可能性があるからです。
著者プロフィール
- 内藤聡
Anyplace共同創業者兼CEO。大学卒業後に渡米。サンフランシスコで、いくつかの事業に失敗後、ホテル賃貸サービスのAnyplaceをローンチ。ウーバーの初期投資家であるジェイソン・カラカニス氏から投資を受ける。ブログ『シリコンバレーからよろしく』。@sili_yoro