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シアトル発 マインドフルネス・ライフ

長野弘子|アメリカ

コロナ禍のクリスマス ~ ストレス軽減にはマインドフルネスで

Pixabay.com

 アメリカは11月に入ると、感謝祭とそれに続くクリスマスに向けて一気にホリデームードになるのだが、今年は新型コロナウィルスの影響でこうした華やかな雰囲気とはうって変わって沈鬱なムードが街に流れている。私の住むシアトルでも、感謝祭まで2週間となった11月12日、ワシントン州のインスリー知事がテレビ中継を行い、新型コロナウイルスの新規感染者が急増していることから屋内での感謝祭の集まりを控えるように州住民に呼びかけた。同居していない家族や友人との集まりに参加する人は、14日間の自主隔離を行い、安全だと確信できない限りは集まりを避けるよう訴えた。

Screen Shot 2020-12-09 at 3.22.50 PM.png(出典)www.king5.com

 また、11月16日から12月14日まで小売店やレストラン、個人的な集まりなどを含む経済活動が制限されているが、インスリー知事は昨日、この制限をさらに2021年1月4日まで延長すると発表した。レストランや小売店業界の人々にとって経済的に大打撃であるのはもちろんのこと、自主隔離が続いている現状に関して、周囲からも「この孤独な生活がいつまで続くのか」、「もう我慢の限界!」という悲鳴が聞こえてくる。

 ホリデー・シーズンは、日常生活に加えてホリデーカードやプレゼントを送ったり、ただでさえやることが増え、家族との集まりも楽しいだけではなく気疲れもしてストレスが溜まりがちだ。さらに、コロナ禍で友人と会って息抜きする機会も失われてしまう。Withコロナで倍増するホリデー・ストレスを少しでも減らし、心を穏やかに保ちながら生活するコツとして、この機会にぜひストレス軽減に絶大な効果を発揮する「マインドフルネス・メソッド」を新たな習慣として取り入れてみてはいかがだろうか。

 マインドフルネス・メソッドは、ほんの少し意識の方向を変えるだけでよく、生活にすぐに取り入れられることもあり、世界中で爆発的に広まっている。マインドフルネスとは一言で言うと、「今ここ」にある五感の状態に注意を向けること。

・五感に意識をむける(自動思考・自動行動から目覚める)

・ありのままを見る、ジャッジしない(評価による嫌な気持ちを手放す)

・執着しない(過去や未来にとらわれることから自由になる)

・おもに瞑想を中心としたプラクティス

 現代社会に生きる私達は、そのほとんどの時間は過去や未来のこと、または現在の状態への対処に費やされており、心と体の今の状態に注意を向けることはあまりない。うつ病や不安障害、またPTSDといった精神障害の多くが、過去や未来のことを考えたくもないのに考え続けたり思い出したりして、恐れや不安にとらわれている状態である。その逆に、今の状態を意識して感じていると、過去や未来を考える意識のスペースが少なくなるので、嫌な気持ちを感じにくくなる。もしくは、嫌な気持ちをそのまま感じてあげることで感情が処理されてニュートラルな状態に戻りやすくなる。

 もともとは、マサチューセッツ大学のジョン・カバット・ジン教授が仏教の瞑想法からヒントを得て、1979年にマインドフルネス・ベースド・ストレス・リダクション(MBSR)というプログラムを作ったのが始まりだ。ジン教授は、仏教の開祖ゴータマ・シッダルダが行っていた瞑想法を受け継ぐビルマのサヤジ・ウ・バ・キン氏に教えを受けたS..ゴエンカ氏のヴィッパサーナ瞑想に出会い、この瞑想法をセラピーに取り入れた。MBSRはいまでは全米中に広まり、多くの学校、刑務所、病院、軍施設などで導入されて驚くような効果を上げている。

 そのマインドフルネス瞑想のなかでも、たった3分間で簡単にできる「ボディ・スキャン瞑想」を紹介しよう。まず、楽な姿勢で椅子に座り目を閉じて、数回ゆっくり深呼吸をし、酸素が自分の体に入ってくる感覚、また息を吐くたびに体がリラックスしていく感覚を感じる。そして、足の裏から徐々に体全体をスキャンしていく。絨毯や床に足がついている感覚、重さ、圧力、温度などを感じたら、次に椅子に接している太ももの裏側、背中の感覚、お腹に注意を向け、深呼吸を続ける。そして順番に、手と腕、肩、首、喉、顎、顔の筋肉にも意識を向けていき、最後に全身に意識を向けたまま、深呼吸をしばらく続け、十分リラックスしたところで目を開ける。

 このボディ・スキャン瞑想、朝や夜寝る前などにベッドの中でもできるので気軽にやってほしい。完璧にやろうと思わず、ありのままを感じること。ストレスが溜まっているな、疲れているなと思う時に、深呼吸をゆっくりと行い、肺やお腹に空気が入ったり出たりする感覚に集中するだけでも、心が落ち着くので試してみてほしい。ほんの少しでも体の声を聞くことができればOKだ。雑念が浮かんでも、嫌な感情が湧き上がってきても、それを遠くから見るような感じで、「ふーん、そういう風に考えるんだ」、「そういう風に感じるんだ」と自分に語りかけてみると、嫌な気持ちを受け止めてあげられるだろう。

 クライアントの中には、マインドフルネスを24時間続けなければいけないと勘違いして、「とても難しかったわ。無理よ」と言ってきた人もいる。1日のうち、気づいた時にやるので十分だ。好きな歌を聴いている時、ヨガやワークアウト、スポーツや音楽の練習、料理や野菜を切ったりなど、五感をフルに使っている時は自動思考やセルフトークが少なくなるので、それも立派なマインドフルネスの状態だ。

 また、不安の強いクライアントに対して、マインドフルネス瞑想を数年前に紹介したのだが、当時は「私は瞑想なんて興味ないし、深呼吸なんてしても何も変わらないわよ」と言っていた。ごく最近になって、彼女から「ヒロコ、マインドフルネスって知ってる?すごくいいのよ~」とマインドフルネスの記事のリンクが送られてきた。自分に合う方法は自分にとってベストなタイミングで見つけるのだと再確認した瞬間だった。

 未来や過去をあまり考えず、今を感じている状態が長いと、心の中での自分へのダメ出しや他人への否定的な評価なども少なくなり、気が楽になる。そういう意味で、小さい子どもは時間の概念があまり発達しておらず、「今」か「今じゃない」かの二種類しか時間の感覚がなく、今を楽しむ天才だ。私達も子ども達を見習って、今この瞬間を楽しむということが、ストレスに負けない柔軟な心をつくる秘訣なのかもれない。

 

Profile

著者プロフィール
長野弘子

米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、15年間ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。2011年の東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウェスト大学院でカウンセリング心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える人々にセラピーを提供している。悩みを抱えている人、生きづらさを感じている人はお気軽にご相談を。


ウェブサイト:http://www.lifefulcounseling.com

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