農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり
ぶどう畑のおじいさんが教えてくれた話
坊ちゃん、嬢ちゃん、知ってるかい?
このぶどうの木の下、土の中には、地上に見える以上に大きな世界が広がっていることを。
微生物のネットワークが何キロも続いている。
ぶどうの木が必要とする栄養分を遠くからでも運んできてもらい
代わりにぶどうは糖分を微生物に与える。
こんな共生関係が成り立っているのだよ。
坊ちゃん、嬢ちゃん、知ってるかい?
土の中だけでなく、ぶどうの木そのものにも沢山の微生物が暮らしていることを。
例えば、葉っぱの表面には、多種多様な微生物がバランスを取って住んでいて
外部の脅威からも守ってくれている。
人間が「良い」「悪い」と決めている微生物、両方とも住んでいるんだ。
そのバランスが崩れると病気になりやすくなる。
「悪い」微生物を排除しようとすることや、滅菌・殺菌しようとすることも、バランスが崩れる原因。
そして例えば、カビが葉っぱを攻撃してきた際、
うまく葉を取り除いたり、枝を切ったりしてあげると
ぶどうの木自身がカビを干からびさせて、やっつけてしまうんだ。
このような植物が本来持つ力を最大限引き出すお手伝いをするのが、
この農園での我々人間の役割なんだよ。
坊ちゃん、嬢ちゃん、知ってるかい?
人間が栽培を始める前は、ぶどうってのは
山の樹の幹に絡んで伸びていく植物だったんだ。
春から秋にかけて止まらず成長するぶどうの葉っぱは
森の動物たちにとっての草原の草のようなもの、大切な食料。
特に先端の成長点はタンパク質が豊富で、大切な栄養源なんだ。
坊ちゃん、嬢ちゃん、知ってるかい?
秋になると鳥がぶどうの実を食べにくるだろう?
人間からしてみると、鳥は我々の貴重なぶどうを食べてしまう邪魔者だ。
でもな、実はぶどう自身が鳥たちを呼んでいるんだ。
美味しそうな真っ赤な色になって、皮に付くイースト菌に独特な香りを放ってもらって
それを手掛かりに鳥たちが空から舞い降りてくる。
実を食べてもらい、種を遠くへ運んでもらうんだ。
糞と共に排泄された種はその新たな地で芽を出し子孫を増やしていく。
我々人間は、このようなぶどうや鳥の命の営みの中で
おすそ分けを頂いているんだよ。
もちろん、我々も生きていかないといけないわけで
だから鳥よけのネットを張ったり、凧を飛ばしたりするわけだけれど。
坊ちゃん、嬢ちゃんよ。
大人になったら、このワインを飲みにおいで。
君たちがお世話をしてくれた、微生物や鳥や虫もお世話をしてくれた
ぶどうで作ったワインを飲みながら、また語ろうじゃないか。
※このお話は、実際にオランダ西部のワイナリーのオーナーさんが教えてくれた聞いたものを基にしています。科学で証明できるのか?と聞かれたらすべてに関してYESではないかもしれませんが、今の科学では説明できないことも世の中にはある訳で...このような世界もきっとあるのだろうな、というのが私の考えです。
著者プロフィール
- 森田早紀
高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。
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