農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり
オランダ西部に広がる人工の農地、人工の自然
見渡す限り、地平線まで続くまっ平な土地。
何列にも並ぶ風力タービン。
15分おきに快晴・曇り・雨と目まぐるしく変わる天気。
ここはFlevopolder、つい数十年前には湖だった干拓地。
アムステルダムの北東にあるFlevoland(フレヴォランド)州。大学の夏休み期間にこの地域の農園に滞在し、周辺を自転車で巡った。その時の写真とともに、歴史的背景や農業の実態を紹介しよう。
歴史
今Flevoland州があるこの地域は元々低地で、調べる限り、陸地だった時期と湖だった時期が両方あったようだ。13世紀の洪水により、農地が浸水して新たな湾ができ、北海(Noordzee)に対して南海(Zuiderzee)と名付けられた。
1916年の大雨と洪水により再びZuiderzee周辺の地域が浸水し、堤防を建設することを国が決めた。湾の入り口にAfsluitdijk(閉鎖堤防・下の地図中のFlevoland州の左上に示された黄色い線)を作り、IJsselmeerという湖ができた。そして同時に干拓地も作った。
これが1986年に設立した、12個目の州、Flevolandだ。面積は1412㎢で、日本最小の都道府県・香川県(1877㎢)よりも小さい。
名前の由来は、古代ローマ時代から中世初期にこの地域にあったと記録されているLake Flevo(Flevo湖)である。
農業地帯としてのFlevoland州
この地域では農業が盛んで、主に根菜(ジャガイモ、甜菜、人参)やキャベツ、麦などが広大な土地で栽培されている。
土はローム、もしくは粘土質。比較的肥沃だが圧縮に弱く、雨が続くとベトベトの層になってしまう。トラクターなどの農業機械でその上を走るとなおさらだ。
地下水位は用水路や運河、ポンプによって一定に保たれている。この地域のぶどう農家さんに聞いたところによると、そのおかげで水やりの必要がないということだった。さらに、元々海だった場所の土は塩分濃度が高すぎないかと気になったが、研究大学による最新の調査によると作物の根が張る上部1.5mの土の塩分濃度は通常値であった、と言っていた。
農業に加え、湖の沿岸では漁業も行われているそうだ。
人工的な自然
湖の横に位置しているというだけあって、Flevoland州では風が絶えない。それを活用した発電・風力タービンがあちらこちらで見られる。等間隔に並んでいて、いかにも「㎜単位まで設計して建てました」というような不気味なくらい秩序のある風景。
(筆者撮影 2021年8月 農地と風力発電所が広がる)
Flevoland州の南西部には、工業地帯にする予定だった地域がある。しかし水位が高すぎて工業地帯にするには見合わないため、国立の自然保護区に用途変換され、Oostvaardersplassenと名付けられた。森林や沼地、湖があり、様々な鳥類が観察できるという。
下の写真はその一画、公園内をサイクリング中に撮ったものだ。よく見ると、木々も種類・大きさごとにお行儀よく植えられている。自然公園さえも人工という不思議な世界だった。
農園に滞在中に一緒に作業したフランス人とイタリア人曰はく、オランダの風景は人工的だ、と。
頷くしかなかった。
参考文献
Bodematlas, n.d. Duurzaam gebruik ondergrond
Canon De Noordoostpolder, n.d. 2 - Lake Flevo and Lake Almere: swamp and lakes (0-1200 AD)
Rosenberg, 2019. How the Netherlands Reclaimed Land From the Sea
van den Akker et al., 2013. Risico op ondergrondverdichting in het landelijk gebied in kaart
van Scoubroeck & Kool, 2010. The remarkable history of polder systems in The Netherlands
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著者プロフィール
- 森田早紀
高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。
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