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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

スペイン農家の怒りは頂点に 各地に広まる抗議活動のワケ

(提供:スペイン農家)

「いい加減にしろ!」「もう我慢できない!」

2月6日朝、怒りに満ちたスペインの農家たちが一斉にトラクターを引き連れ各地の道路に繰り出しました。農家たちはクラクションを鳴らしながら街中を走り回ったり、国道をトラクターで封鎖するなどして抗議活動を行なっています。フランスをはじめとするヨーロッパ各地で広がっている農家による抗議活動は、スペインの農家たちに大きな影響を与えたようです。

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©️YouTube - ESPAÑA | Al menos 19 detenidos en la tercera jornada de huelga de los agricultores | EL PAÍS

フランス農家からの攻撃を受けたスペイン産農作物

去年の10月のこと。フランスの農家らが国境を越えて入ってくるスペインの運搬トラックを遮断し、積み荷のワインを地面に投げつけ台無しにするという出来事が起こりました。また他のトラックに積まれていた野菜や果物もボロボロに破損し、スペインからの輸入を妨げたのです。

フランスでは物価の上昇に加え厳しい独自の農薬使用規制などが存在し、農家は苦しい生活を強いられています。そんな中、フランスと比較し農薬規制も緩く物価や生産コストが低いスペインで作られた安い農産物がフランスに持ち込まれることによって、フランス人らは安く売られているスペイン産の製品ばかり買うようになってしまいました。さらにウクライナ戦争以来高騰を続ける燃料の価格や、エコ思考の強いヨーロッパ連合の厳しすぎる地球環境を考慮した規制などが農家にさらに大きな負担と損失を招いているのです。ついに我慢の限界に達したフランス人農家たちは、国境を越えて入ってくるスペインの製品を全てぶちまけることによって、ヨーロッパやフランスに対して抗議の意思を表しました。

スクリーンショット 2024-02-08 午後11.38.06.pngスペイン産ワインをぶちまけるフランス人©︎YouTube -FRANCIA: VINICULTORES asaltan CAMIONES para impedir la IMPORTACIÓN de VINO ESPAÑOL | RTVE

さらにこの出来事から3ヶ月たった1月下旬。前回同様にフランス人農家たちが道を封鎖し、スペインからくる運搬トラックの積み荷の農作物を再び攻撃し始めました。国境付近で身動きが取れなくなったトラックにフランス人農家らは積み荷は何か質問をし、もし農作物だと分かったら一斉に襲い始めるのだそうです。トラックの運転手は「これは我々にとって大きな経済的な損失になる」と肩を落とし、スペインの国民らは「フランス人はやはり野蛮だ」「あいつらがやる事はまるで動物のようだ」とフランス人に対し怒りの感情をあらわにしましたが、スペイン人農家らはどうやらこのフランス人農家と似た不満をこれまで抱えていたようです。

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フランス人の攻撃を受けるスペインのトラック©︎YouTube -Viticultores franceses atacan y saquean varios camiones españoles en la frontera

 

農家らの要求

国民の食卓を陰で支えている農家たち。どこの国でもそうですが、政治家たちは彼らなしでは我々は生きていけないことを忘れてしまいがちなようです。

スペインのサンチェス首相は現在カタルーニャ独立派と約束した恩赦法を成立させることで頭がいっぱいのようで、国民が抱えてる苦悩や問題に気を配っている余裕がありません。そんな国のリーダーに対し農家らは「あいつはカタルーニャ人にゴマすってばっかりでこっちに見向きもしない!」「俺たちがいないと国民はみんな餓死にするんだぞ!」と怒りをむき出しにしています。スペインの農家たちがこの抗議活動を通して国やヨーロッパ連合に訴えたいことは数多くありますが、その中でも分かりやすい要求をここでいくつか紹介したいと思います。

1公平な価格

「収穫してもお金にならない」。収穫の時期を迎えたスペインのレモン農家の中には、せっかく育てたレモンを収穫することをやめてしまった農家もいます。レモンを生産するのにかかるコストは1キロ1.5ユーロ。しかし売りに出しても1キロ18〜30セントにしかならないのだと言います。生産コストの半分にも届かないお金しかもらえないのであれば、収穫するだけ無駄だとレモン農家は収穫を放棄してしまったのです。先月には、大量のレモンをマラガの中心街に持ち出し、通行人に無料で配り出すレモン農家も現れました。このような危機的状況に置かれている農家はレモン農家に限りません。スイカやブルーベリー、その他の農産物を生産している農家も同じ理由に苦しみ、このような抗議活動やニュースのインタビューに答えることによって彼らが置かれている状況を訴えて続けてきましたが、政府は他の政治テーマに夢中でこれまで全く耳を貸そうとしませんでした。

2ヨーロッパ連合の厳しすぎる規定

オーガニック製品の人気が高く、環境保護にも積極的なヨーロッパ。先走って次々と新しい規制や目標を掲げていますが、それを実現するために払わなければいけない代償に関してはどうやらあまり関心がないようです。ヨーロッパの要求にスペインは答えなければならないので、現状を無視した約束事やルールがどんどん増えていきます。それによって使用できない農薬の種類は増え、化学肥料の使用制限も厳しくなることで生産量はどんどん減っていき、農家の生活は日に日に苦しくなっていくばかり。農家らはこう言った無理な要求を改め、農産業における官僚主義に終止符を打つことを望んでいます。

3他国からの輸入品

ヨーロッパや国が定める規定によって生産量が減り、コストがかかるとなると農作物の価格は必然的に高くなります。そこで販売する側はもっと安く仕入れようとモロッコなどの物価が安い国から農作物を輸入するようになりました。EU非加盟国では、加盟国がクリアしなければならない厳しい農薬や化学肥料の規則がないため、安価に大量に作物を生産することができます。それによってスペインで生産された農作物は売れなくなり、スペイン農家を苦しめているのです。彼らは海外から輸入される農作物にもヨーロッパ連合の規則をクリアすることを義務付けるほか、輸入農産物に対しての関税引き上げなど何かしらの対策を取るように求めています。

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(提供:スペイン農家)

道を封鎖され至る所で交通麻痺が起きているスペイン。一方で国民らは関連するSNSの投稿に対し「がんばれ農家たち!」「応援してる!」と農家を支持するコメントを次々と残しています。ヨーロッパがサステナビリティのために定めた新しい規定のせいでコロンビアのコーヒー農家が窮地に立たされているという内容のブログを過去に書きました。この時も書きながら思っていたのですが、ヨーロッパはいい加減に会議室の中だけで話し合われた夢物語のような非現実的な規則を次々と設けるのをやめ、実際に農地に足を運んで現状をみるべきではないでしょうか。(参考: ヨーロッパ輸出停止の危機?コロンビアコーヒーに立ちはだかる2つの課題)

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(提供:スペイン農家)
 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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