日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
コロンビア左派大統領の演説に賛否 第77回国連一般討論演説
9月21日から第77回目となる国連総会がニューヨーク国連本部で開かれています。今年8月に就任したばかりのコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領はコロンビア史上初の左派大統領として、初めて国連総会に参加しました。一般討論演説では日本やアメリカを含む多く国がロシアのウクライナ侵攻に対する批判をメインのテーマとして演説を行なっていく中で、ペトロ大統領はコロンビアが現在直面している「戦争」にフォーカスし演説を進めていきました。
ペトロ大統領の演説は麻薬戦争・アマゾン破壊・天然資源の3つがテーマとなっており、これらが原因でコロンビアでたくさんの自然が侵され人の命が奪われていると訴え、各国に援助を求めました。
失敗したコカイン戦争
コロンビアは残念ながら世界最大のコカイン生産国であり、世界のコカイン供給量の70%をコロンビアが占めていると言われています。コカイン生産はコロンビアに存在する多くの武装グループの資金源となっており、コカインの生産を止めるためにはこれらの組織と対立しなくてはなりません。今まで他国からの資金援助を受け様々な方法でコカ畑撲滅作戦を行なってきたコロンビアですが、撲滅どころか生産量は年々増えていくばかりです。ペトロ大統領は演説の中でこう述べました。
「森に毒を巻き散らかし、男たちを牢屋にいれること以外あなたたちは私たちの国に興味がないのでしょう。子供の教育ではなく、あなたたちが興味があるのはジャングルを殺し石炭や石油を持ち出すことなのです。」
コロンビアは長い間アメリカと手を組み麻薬撲滅に取り組んできました。その中で主に行われてきた除草剤(グリホサート)を使用しコカの畑を枯らすという方法は、現地の農民たちの健康を脅かすだけでなく、土が死に作物が育たなくなるため農民たちが生計を立てることができなくなってしまうという理由から国民からたくさんの反対の声が上がっています。実際コカの葉を栽培している人物は麻薬組織ではなく貧しい農民たちで、除草剤を使って彼らを追い込んだところで麻薬組織は痛くも痒くもないのが現状でしょう。
「薬物中毒の原因はコロンビアの自然ではありません。世界の権力の不合理さなのです。」
コカインがなくならないのはコロンビアのせいだけではなく、コカイン消費国や資本主義の構造もコカインを支えているとペトロ大統領は訴え、各国に協力を求めました。
「私の傷ついたラテンアメリカから不合理な薬物戦争を終わらせることを要求します。薬物の消費を減らすのに必要なのは戦争ではなく、みんなでより良い社会を構築することです。薬物を減らしたいですか?それでしたら利益ではなく、もっと愛について考えましょう。合理的な権力行使について考えてみてください。」
止まらない環境破壊
「皆さん、あなたたちが戦争をしてそれで遊んでいる間にジャングルは燃えているのです。世界の気候の柱となるジャングルはその生命とともに姿を消しています。二酸化炭素を吸収する巨大なスポンジは蒸発していっているのです。」
過去10年間、毎年コロンビアの保護地区の森1,5%が、放牧やパーム油の栽培などを目的に伐採され消滅していると言われています。2022年第一四半期の森林伐採は昨年同時期より10%も増加しているのに加え、伐採面積は年々過去最大を更新し続けています。
2016年コロンビア政府はゲリラ軍FARCと平和協定を結び、それによって解体されたFARCのメンバーたちが身を潜めていたジャングルをあとにしました。それまでFARCに対する恐怖からジャングルに踏み込むことができなかった違法業者たちが野放しになったジャングルに次々と足を踏み入れ、違法伐採や違法採掘を繰り返し、アマゾンをはじめとするコロンビアの自然破壊は平和協定を境に異常なスピードで増えていったのです。
「アマゾンやジャングルを破壊することは国やビジネスマンが従うスローガンとなってしまいました。気候を支えている偉大なジャングルに特化した専門家の叫びなど関係ないのです。世界の権力関係にとってジャングルとその住人は災難をもたらしている犯人なのです。ジャングルを救うスピーチほど偽善的なものはありません。」
お金と権力への依存
「偽善者たちは自分たちの社会の失敗を隠すためにコカインを排除している一方で、私たちに次々と石油と石炭を要求してきます。消費、権力、お金という他の中毒を落ち着かせるために。」
ペトロ大統領は新規石油プロジェクトの禁止を公約に掲げたり、税制改革で石油・石炭の輸出へ課税をかけるなど、脱炭素化に非常に意欲的な姿勢をみせています。フラッキングなどによる石油採掘によってコロンビアの自然が侵されている一方で、石油や石炭の依存から抜け出せない先進国はコロンビアに環境保護を求めている。今回のペトロ大統領の演説は、先進国に対する皮肉に溢れているように感じました。
「真実を隠すことで、ジャングルと民主主義が死んでいくことを目撃することになるでしょう。薬物戦争は失敗、気候変動の戦いも失敗したのです。薬物の使用は増加し、私の国や大陸でたくさんの人が虐殺され、社会的罪悪感をジャングルとコカインのせいにして何千もの人が牢屋に入れられました。そしてその穴をスピーチと政策で埋め合わせるのです。」
コロンビアからニューヨークに向かう飛行機の中でペトロ大統領自身が書き上げたという強気な演説に対して、コロンビア国民からは「自国の問題を他国のせいにするなんて恥ずかしい!」と演説内容を非難する意見と、「よくぞ世界の偽善者にバシッと言ってくれた!」と支持を表す意見の両方があるようですが、これを聞いた世界の権力者たちがこれからどの様にコロンビアと共にこれらの問題に立ち向かっていくのかが非常に興味深いところです。
¡Un discurso histórico del presidente @petrogustavo en Naciones Unidas!
-- Laura Sarabia (@laurisarabia) September 20, 2022
Siempre atento y cuidando cada palabra. A puño y letra escribió su defensa a la Selva Amazónica y a la PAZ TOTAL. pic.twitter.com/QI1eRjV18z
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon