日本人コーヒー生産者が語るコロンビア
エリザベス女王も気に入った?コロンビアの工芸品「カルメンデビボラルの食器」
英国のエリザベス女王逝去が各国でトップニュースとなっていますが、コロンビアでももちろんこの出来事は大きく取り上げられ人々の注目を集めました。
先月コロンビアでは新しい大統領が就任しましたが、その際エリザベス女王は大使館を通して次の様な祝福のメッセージをペトロ新大統領宛に送っています。
「新しい大統領の就任に祝福の意を表します。私たち2か国はコロンビア独立に遡り、密接な関係にあるのです。この温かくそして強く結ばれた関係がペトロ大統領就任の間も継続されることを望んでいます。」
このやりとりがあったわずか一か月後の訃報に、ペトロ大統領はTwitterで「エリザベス女王の旅立ちに哀悼の意を表します」とコメントを残したほか、多くのコロンビアの政治家たちがイギリスの君主の死に追悼のコメントを寄せました。
コロンビアの歴代大統領で直接エリザベス女王に会ったことがあるのは2016年にゲリラ軍FARCと平和協定を結びノーベル平和賞を受賞したフアン・マヌエル・サントス元大統領のみ。2016年11月1日にバッキンガム宮殿で開かれた晩餐会でサントス元大統領夫妻はコロンビアのとある工芸品を手土産として持参しました。
その工芸品は「カルメンデビボラルの食器」と呼ばれ、アンティオキア県をはじめコロンビアではとても有名な食器です。
バッキンガム宮殿訪問を控えたサントス元大統領の妻であるマリア夫人は、カルメンデビボラルの工房に女王に贈るための食器の製作を依頼し、出来上がった6セット30点の食器がエリザベス女王に贈呈されました。これらの食器はそれ以来宮殿の客間に飾られていると言われています。
カルメンデビボラル コロンビアを代表する工芸品を生み出す小さな町
カルメンデビボラルはコロンビアのアンティオキア県東部に位置する人口5万人の自治体で、ここで作られる陶器はカラフルで美しいとしてコロンビア国内でとても人気があります。カルメンデビボラルで焼き物が作られるようになったのは1898年のこと。エリセオ・パレハ・オスピナと呼ばれる人物がカルメンデビボラルに工房を開いたことで焼き物の町としての歴史がはじまり、徐々に自治体の雇用を増やしていきました。当初は真っ白の食器が主流でしたが、1970年にラファエル・べタンクルが手書きの模様を加えたことをきっかけに現在のようなカラフルなデザインが定着していったと言われています。90年頃から大量生産・大量消費の経済システムが導入されるようになり多くの工房が廃業に追い込まれた時期もありましたが、現在では全行程手作業のカルメンデビボラルの食器は価値があるものとして再評価されはじめ、こんな素敵な食器が作られる工程を一目見たいと多くの観光客がこの街を訪れるようになりました。
コロンビアを代表する工芸品
2016年にエリザベス女王に贈られたカルメンデビボラルの食器。実は2015年のローマ教皇フラシスコ訪問の際にもコロンビアとの友好の印としてこのカルメンデビボラルの食器が贈呈されており、更に昨年公開されたコロンビアが舞台となったディズニー映画「ミラベルと魔法だらけの家」に登場する食器類は全てカルメンデビボラルの食器が描かれているのです。
そして2021年10月から2022年3月の間に開かれたドバイ国際博覧会では387点の食器がコロンビア館に展示されるなど、小さな町で誕生した焼き物はもはやコロンビアを代表する工芸品といっても過言ではないほどの存在へと大成長を遂げたのでした。
ひとりの起業家が町で始めた陶磁器産業。日本で「カルメンデビボラルの食器」が当たり前に売られる日もひょっとしたらそう遠くないのかもしれません。
著者プロフィール
- 松尾彩香
コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住
Twitter: @maon_maon_maon