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トルコから贈る千夜一夜物語

木村菜穂子|トルコ

怒らない秘訣 : 怒りをコントロールするには

i-Stock 怒りという感情

2022 年が早くも 3 か月目に入ろうとしています。2022 年の始まりにあたって、新年の抱負を立てられた方も多いかと思います。抱負を立てた時のフレッシュな気持ちがそろそろ色あせてくる頃かもしれません。筆者も三つほど目標を立てました。そのうちの一つは、昨年に引き続いて今年も継続している目標...「怒らないこと」です。

海外生活の経験者ならすぐに同意してくださると思いますが、海外では腹の立つことが多々生じます。何せ日本は「サービス大国」ですし、とにかく他の人に気を遣います。「気が利く」ことが高く評価され、かゆい所に手の届く人がたくさんいます。

そんな日本を一歩抜け出した先には、気が利かず、サービス精神がなく、とにかく自分中心という人々で成り立った世界があるのも事実。中東のアラブ諸国はその最たるものかもしれません。もちろんどの国にも良いところと悪いところがあります。日本だって完璧じゃない。一度日本を出ると、自分の国を客観的に見る目が養われますので、日本にも至らない点がたくさんあることが分かります。

とはいえ、日本人の持つ礼儀正しさ、繊細な気配り、人間関係における細やかさなどにおいてはやはり右に出るものなしではないかと思います。ところ変わって中東のアラブ諸国。アラブの自己中心的な思考、身勝手さ、気の利かなさはアラブ世界の日常。この点においては、中東と日本はまさに対極にあるといっても過言ではないでしょう。とりわけアラブと仕事をすると、こうした気質が際立ちます。なお、語弊がないように付け加えておきますと、ここでいうアラブとはアラブ世界で育ってそこから出たことがないアラブ達のことです。アラブ世界の外で暮らしているアラブたちには当てはまりません。

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そんな中東ですから、腹の立つことは日常茶飯事。イライラしようと思えばいつでもできるし、怒ろうと思えばいつでも怒れます。そんなシチュエーションには事欠きません。でも中東での生活で学んだことの一つが実は「怒らないこと」なのです。

怒らないことが得策といえる理由

まず、怒っても相手は変わらない。その時は効果的に思えるかもしれませんが、実は相手には通じていないことがほとんど。「馬の耳に念仏」という結果になります。

それから怒ると自分が損をする。怒ると「怒り」のホルモンが分泌され、怒りの連鎖が生じます。ぐっとこらえると、その時は力が要りますが、怒りを爆発させたときのストレスと比べると実はストレスがグンと少ないんです。

最後に、怒ると自分に損なだけではなく、中東では本当に身に危険が生じる場合もあります。これは逆ギレに遭うというケース。それから相手がとことん拗ねて、にっちもさっちもいかなくなるケースなどがあります。

「怒り」という感情には「百害あって一利なし」ということに気がついたのは、ヨルダンで怒りを何度となく爆発させ、あそこでここでと激しく言い争い合った後のことでした。

こんなに怒りやすかったか?

ところでお恥ずかしい話なのですが、日本にいるときは自分がこんなに怒りやすい人間だとは知りませんでした。日本では全てがスムーズですし、何か不都合が生じても大抵の場合は謝罪がなされます。ですから怒るシチュエーションがそれほどなかったといった方が適切かもしれません。しかしアラブ世界では何事も「インシアッラー(神のご意志なら)」で、待てど暮らせど約束が果たされる気配がなく、理不尽な扱いを受けることも多々あり、さらに相手のミスでこちらが不都合を被っても謝罪がなされることはまずありません。

ちなみにヨルダンで時々アラブが自虐的に語っていたジョークがあります。IBM (International Business Machines) という会社がありますが、ヨルダンにも IBM があります。ヨルダンの IBM は Inshallah (神のご意志なら)、Bukra (明日)、Maalish (気にするな) の略。これはヨルダン人の常套句。ふたこと目には「Inshallah (神のご意志ならね)」「Bukra (明日ね)」「Maalish (気にするな)」で事が済まされてしまう。ごく簡単なことでもスムーズに行かないし問題は解決しない。こうした世界に突然投げ出されると、最初こそ戸惑うものの、やがてじわじわと怒りを感じ始めます。溜まった怒りはやがて爆発します。

これは何も私だけのケースではありません。まだヨルダンにいた時に、ヨルダン駐在の日本の会社の方が何かの不都合に巻き込まれて警察を呼ぶ騒ぎになったことがありました。そのフラストレーションをヨルダンの警察にぶつけてしまって警官をののしってしまったケースがありました。それがどの程度のののしりだったのかは不明ですが、イライラを思わず第三者にぶつけた形になったようです。

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警官側はこの「侮辱」に対して大変気分を損ね、日本人側からの正式な謝罪が必要な事態にまで発展しました。フラストレーションが溜まっていたから仕方ないね、などと情状酌量されるはずはありませんし、「これだけのことをされてこれだけの不都合を味わっているのだから、怒りを爆発させても当然」という思考は通用しません。アラブ世界で一番危険なのは、相手を侮辱すること、あるいは侮辱したととらえられることです。怒りを一時的に爆発させることで思わぬ悪影響が自分の身に降りかかることになります。駐在員さんにとっては非常に苦い体験だったのではないかと思います。

怒りのコントロールは生涯の目標

もちろん時にはムカッとくることは避けられません。でも心ない扱いを受けても、暴言を吐かれても、ぼったくりに合いそうになっても、「怒らない、怒らない、怒ったら自分が損なだけ」と言い聞かせます。すると怒りはスーッと引き、数時間後、数日後には何があったかすら忘れます。反対に怒りを爆発させたときのことって、何年経っても覚えているんですよね...

そんなアラブ世界を抜け出して現在暮らしているトルコ。同じ中東でも全く違います。トルコでも腹の立つことはもちろんありますが、その回数は驚くほど少ない。これは私が人間として成長したからでもなんでもなく、トルコ人が全体として人に敬意を払うことを重視する国民であることによるかと思います。社会のシステムもかなりの程度スムーズで、欧米と比べても遜色ありません。

ところが、アラブ世界と比べて怒りを引き起こすシチュエーションがかなり減っているものの、気を抜くとついつい顔を出してくる「怒りやすい」というこの性質。忘れた頃にひょっこり出てきます。

私たちはよく「腹が立った」「なんかムカついた」などという表現を使うことがありますが、腹をたてたり苛立ったりするという決定をしたのは他でもない自分自身です。同じシチュエーションでも「腹を立てない」ことにすることもできます。つまり結局のところ、怒りをコントロールするかしないかは自分次第ということなんですよね。

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そんなわけで新年の目標は「怒らないこと」。とはいえこれは「生涯の目標」とも言えるかもしれません。これが自然にできる人は良いですが、私のように努力しないといけない人もいます。冷蔵庫に貼り付けている役立つ格言があります。

- すぐ​に​怒ら​ない​人​は​力​の​強い​人​に​勝り, 怒り​を​抑える​人​は​町​を​征服​する​人​に​勝る。

- 愚か​な​人​は​すぐ​に​いら立ち​を​あらわ​に​し, 聡明​な​人​は​侮辱​を​見過ごす。

- 怒りっぽい人は争いを引き起こし、激怒しやすい人は多くの違反を犯す。

いつもではありませんが、出かける前に冷蔵庫の前でこうした言葉をじっくり読み込みます。侮辱されても、理不尽な扱いを受けても、そしてそれが予期せずに起こったとしても、蚊が刺したかな~くらいに思えるようになるのが目標です。さて 2022 年に目標達成となるか...。

 

Profile

著者プロフィール
木村菜穂子

中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。

公式HP:https://picturesque-jordan.com

ブログ:月の砂漠―ヨルダンからA Wanderer in Wonderland-大和撫子の中東放浪記

Eメール:naoko_kimura[at]picturesque-jordan.com

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